『ルパンの娘』にみる、“ドラマ→映画化”の再来 既存の視聴者に向けた作風が主流に?
昨年夏のコロナ禍に、『コンフィデンスマンJP』と『今日から俺は!!』が立て続けに大ヒットを飛ばし、一気に再ブームのピーク期に突入したといっても過言ではないテレビドラマの“劇場版”。90年代後半から2000年代にかけて、『踊る大捜査線』シリーズのヒットを皮切りに大ブームとなりながらも、あまりの頻発具合に多くの映画ファンを辟易とさせたこと。その後さまざまな潮流が現れては消えていくなかで、試行錯誤を重ねながら少しずつ信頼を取り戻していったことなど、その紆余曲折の歴史については、以前こちらの記事(参照:『奥様は、取り扱い注意』『あな番』ーー劇場版ブーム再燃! ドラマと映画の関係は“変革期”に)で触れた通りである。
『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』の大ヒットをきっかけに始まったといえる現在の再ブーム期においても、「流行ったから映画化」「ドラマと映画を連動して」など、いくつもの商業的リスク回避の手段が駆使される点については相変わらずである。それでも、そこには『踊る〜』の時点で目標とされてきたであろう、「テレビでは描けない映画的なスケール」を体現しようとする計らいを少なからず感じ取ることができる作品もしばしば生まれるようになった。ではこの「映画的なスケール」とは一体何なのだろうか。『踊る〜』や『海猿』、『コード・ブルー』のような元々規模感がある作品であれば、それは未曾有の大事件・大事故が起こることに他ならない。しかしその手の作品ではない時、とりわけそれがフジテレビ映画であるとするならば、高い確率でこの結論にたどり着くようだ。「そうだ、海外に行こう」と。
たとえば『コンフィデンスマンJP』シリーズでは香港、マレーシアと来て年明けに公開される3作目では地中海のマルタまで行くそうだ。過去を遡ってみても、2013年の『謎解きはディナーの後で』ではシンガポールに行き豪華客船でロケを敢行。2008年の『HERO』ですら、事件の捜査の過程で韓国へと渡りイ・ビョンホンに会いに行き、2015年では海外にこそ行かずとも事件の大枠に大使館が絡んできたりする。海外に行っても違和感がない題材をあえて国内に収めるのは西谷弘の作品ぐらいで、来年公開の『シャーロック』の劇場版『バスカヴィル家の犬』は瀬戸内海の島で展開するというのだから、それはそれで西谷演出の手腕を堪能できるものになることだろう。
閑話休題、2019年と2020年に連続ドラマが放送され、後者の最終話手前(ストーリー上では実質的な最終話であった)で映画版の製作が発表された『ルパンの娘』もまた、例によって海外を舞台に選ぶこととなった。ところが興味深いことに、日本国内のヨーロッパ風施設(和歌山のポルトヨーロッパや、姫路の太陽公園の白鳥城など)を巧みに利用して異国の地である“ディーベンブルク王国”を表現していくのである。おそらく当初はリアルに海外でロケすることも視野に入れていたのであろう、コロナ禍によってそれが実現できなかったことは、かえってこの作品が持ち合わせる“はったり”感、ないしは同じ武内英樹監督の『翔んで埼玉』のキャッチコピーや本作劇中の台詞を借りれば“茶番”感を良い意味で高めてくれるのである。