『ルパンの娘』にみる、“ドラマ→映画化”の再来 既存の視聴者に向けた作風が主流に?
“もうひとりのLの一族”たる悪役の三雲玲(観月ありさ)のジョーカー風メイクであったり、広場で繰り広げられる『愛の不時着』のパロディから、このドラマにはおなじみのミュージカル演出に至るまで。“本物”でなく、あまりにも精巧な“贋作”のロケーションだからこそ空回りすることなく、かつ余分な特別感もなく“ドラマ版とほぼ同じことをやっている”という安心感が生まれる。物語序盤でLの一族がターゲットの王冠の贋作をつかまされるところは、この映画のロケーションが贋作であることの示唆にも思えてしまう。
もちろん海外に行くという設定以外に劇場版としてのスケールアップがあるかと言われれば、主人公の華の生い立ちに関わるLの一族の秘密が明かされることや、北条三雲が因縁の相手と対峙しながらも手を下せない葛藤などは、ドラマ版の最終回でやってもよかったと言われればぐうの音も出ない。だとすれば渉(栗原類)が作るガジェットの非現実性がこれまで以上に発揮されていることぐらいだろうか。二度手間・三度手間を生むためにしか発揮されないタイムマシンや、種明かし的に使われる透明マントは、これまでの『ルパンの娘』のノリを理解していればさほど気にはなるまい。そう考えると、やはりこれは明確にドラマと地続きになった物語であると同時に、ファン向けのスペシャル仕様といったところか。
考えるまでもなく、テレビドラマの劇場版というのは単なる続編映画以上に初見泣かせのものになるのは当然である。3カ月なり半年の毎週1時間を共有していくというテレビドラマの特性は、2時間のひと時に落とし込もうとした時にどうしても内輪的なノリが介入してしまう。今回の『ルパンの娘』も、ドラマ版を楽しんで観てきた身としてはすばらしく楽しい時間を味わえた(欲をいえばサカナクションの「モス」を最後にもう一回かけてほしかったが)ものの、1本の映画としてはかなり無軌道さが目立ち、どことなくかつての劇場版乱発期によく見られた、映画にする意味を持たない作品が戻ってきたという懸念を抱かざるを得ない。
とはいえ現在もまだつづく映画興行の苦しい状況を鑑みれば、こうした典型的なライト層の映画館への客足復活をねらったような、肩の力が抜けた作品の存在というのも一概に無碍にはできない。おそらく向こうしばらくは、こうした既存のドラマ視聴者向けの作りをした劇場版がメインストリームとなるのであろう。試行錯誤が積み重ねられた劇場版ムーブメントの20年強の歴史がここにきて一周回ってきてしまった感があるとはいえ、それはまた新たなかたちで日本映画の今後を見据える良い機会になるのではないだろうか。
■公開情報
『劇場版 ルパンの娘』
全国公開中
出演:深田恭子、瀬戸康史、橋本環奈、小沢真珠、栗原類、どんぐり(竹原芳子)、観月ありさ、市村正親、藤岡弘、(特別出演)、大貫勇輔、小畑乃々、岡田義徳、太田莉菜、マルシア、信太昌之、我修院達也、麿赤兒、渡部篤郎
原作:横関大『ルパンの娘』『ルパンの帰還』『ホームズの娘』(講談社文庫刊)
監督:武内英樹
脚本:徳永友一
音楽:Face 2 fAKE
主題歌:サカナクション「ショック!」(NF Records / Victor Entertainment)
配給:東映
(c)横関大/講談社 (c)2021「劇場版 ルパンの娘」製作委員会
公式サイト:https://lupin-no-musume-movie.com/
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