浅野忠信の新次はあまりにもすごかった 『おかえりモネ』及川親子の物語はまるで映画

浅野忠信の新次はあまりにもすごかった

 今から約1年前の9月末、『おかえりモネ』に浅野忠信が出演するというニュースが届いたときは衝撃だった。『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)、『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)など、近年はテレビドラマでその姿を見る機会はあったが、“朝ドラ”のイメージとはかけ離れていた役者だったからだ。

 ただ、それは決してネガティブな意味ではない。彼が俳優の中でも屈指の“映画の匂い”を放つ役者だからだ。『バタアシ金魚』に始まり、『PiCNiC』、『Helpless』、『鮫肌男と桃尻女』、『地雷を踏んだらサヨウナラ』など、気鋭の監督たちとタッグを組んだ90年代の一連の出演作の存在感は凄まじく、役者が憧れる俳優として、日本映画界を長きにわたって牽引してきた。浅野がそこにいるだけで、物語が生まれてしまうと言ってもいい佇まい。その強烈な個性は、(映画に比べれば)わかりやすさが求められやすいテレビドラマと、決して相性がいいものではなかったように思う。

 月曜から金曜までの朝、しかも1話15分という朝ドラの中で、浅野の個性は物語に溶け込むことができるのか。発表当初に抱いた少しの不安は、結果としてただの杞憂に終わった。それどころか、『おかえりモネ』及川新次は浅野忠信でなければ間違いなく成立しなかったと視聴者の誰もが感じたのではないだろうか。

 東日本大震災が物語の背景にある本作において、登場人物はみな様々な傷を抱えている。描かれていないだけの可能性もあるが、登場人物の中で唯一、震災によってはっきりと家族を失ったのが新次と亮(永瀬廉)だ。妻・美波(坂井真紀)を失い、アルコール依存症になり、“立ち直る”ことができなかった新次。幸せを追い求めることができず、父を取り戻すために頑張り続けた亮。傷の大小は比べるべきではないが、本作の中で最も重いものを背負ったのは紛れもなくこの及川親子だ。

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