中村蒼が“NHKドラマ”に欠かせない理由 『べらぼう』『東京サラダボウル』などの存在感

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)は、早いものですでに4分の1の放送を終えた。本作は多種多様な江戸文化が開花していくさまを捉えていくものだから、これからさらにドラマは盛り上がり、より華やかなものになっていくのだろう。しかしながら、派手に盛り上がってばかりでは、私たち視聴者は疲れてしまう。ときに展開をゆったりと落ち着けるような存在が必要だ。そのような者のひとりが、次郎兵衛ではないだろうか。演じているのは中村蒼である。
本作は、吉原の貧しい庶民の子に生まれた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)が、“江戸の出版王”に成り上がっていくさまを描き出すものだ。彼は“本”というメディアを利用し、吉原の地を盛り上げることに貢献、江戸文化が開花するその立役者となっていく。
中村が演じる次郎兵衛は、そんな蔦重の義理の兄だ。彼は、かつて孤児であった蔦重を拾い育て上げた駿河屋市右衛門(高橋克実)の実の子。茶屋である「蔦屋」の本当の経営者だが、事実上は蔦重が切り盛りし、その間に多趣味な次郎兵衛は自由気ままな日々を送っている。

江戸の熱血漢を演じる横浜とは対照的に、中村の演技はつねに穏やかで落ち着いている。このコントラストが絶妙であり、『べらぼう』という作品の特筆すべきポイントになっているのではないだろうか。“蔦重=横浜流星”は特別なリズムやペースを持っている人物だが、“次郎兵衛=中村蒼”もまたそうだ。前者はいつも豪快でスピーディ、後者は上品でゆったりとしている。中村の演技があってこそ、横浜の力のこもった演技はより際立っている印象が強くある。そう、この次郎兵衛がいてこそ、あの蔦重の存在は成立しているように思うのだ。
横浜と中村の実年齢は少しだけ差があり、俳優としてのキャリアも中村のほうが長い。約20年だ。劇中の蔦重と次郎兵衛の兄弟関係が好ましいように、横浜と中村の関係も頼もしいものなのだろう。支え合いなくして、いい芝居というものは成立しない。ふたりのやり取りを見るにつけ、そのようなことを思う。




















