『あんぱん』阿部サダヲの異質な魅力 “謎の風来坊”が体現する優しさのメッセージ

現代の都会を舞台とした朝ドラ『おむすび』(NHK総合)からバトンを受け取り、新たに『あんぱん』(NHK総合)がはじまった。風光明媚な高知の町を舞台に、ヒロイン・朝田のぶ(永瀬ゆずな/今田美桜)の幼き日の日常が綴られているところだ。ドラマが変われば登場人物の顔ぶれも変わる。するともちろん、それを演じる俳優陣も変わる。その中でもさっそく注目を集めているのが、屋村草吉を演じる阿部サダヲだ。彼の妙演に多くの人々が沸いている。
本作は、あの「アンパンマン」というキャラクターの生みの親である夫婦をモデルに、のぶと柳井嵩(北村匠海)の激動の人生を描いていくもの。物語はまだはじまったばかりだが、広く長く愛され続けている『アンパンマン』という作品の誕生の背景を、これから私たちは知っていくことになるのだろう。いまはそのスタート地点だ。

そんな本作で阿部が演じる草吉は、風来坊のパン職人である。自身のことを「フーテン」と称する謎の人物で、どこからともなく高知にやってきたらしい。しかしパン職人としての腕はたしか。大人たちに対しては現金な態度を取るようだが、子どもたちには優しく接する性格の持ち主だ。そして彼はやがて、のぶと嵩の人生に多大な影響を与えていくことになるのだという。
いまドラマは少年少女を中心に展開しているところであり、それを脇から支えているのが大人の俳優陣である。加瀬亮、江口のりこ、吉田鋼太郎、松嶋菜々子、竹野内豊といった優れたプレイヤーたちが、のぶと嵩の家族に扮し、はじまったばかりでどう転がっていくのか分からない作品に強度を与えている。一人ひとりの演技が手堅く、そこから生まれるキャラクターの誰もが、地に足が着いている存在だ。俳優としての豊かな経験を持つ者たちだからこそ、これを実現できているのだろう。
阿部もまた“大人の俳優”のひとりであり、紛れもなく“優れたプレイヤー”なわけだが、ほかの者たちとは担っている役割がまったく違う印象だ。草吉は風来坊なのだから、ほかのキャラクターと違ってその背景が見えず、ある程度は自由気ままに振る舞うことが許されているのだろう。思えば大人たちの中で唯一、草吉だけ地に足が着いていない。本作において屋村草吉とは、かなり異質なキャラクターなのである。





















