浅野忠信の新次はあまりにもすごかった 『おかえりモネ』及川親子の物語はまるで映画
ヒロイン・百音(清原果耶)が天気の可能性を知り、気象予報士となり成長していく姿、菅波(坂口健太郎)との恋模様などが繰り広げられている裏側で、2人はずっと過去に縛られてきた。
第39話、アルコール依存症を断ち切ることができずに再び酒を呑んでしまった新次が言った言葉「俺は立ち直らねえ、立ち直らねえよ」。第75話、美波の母・フミエ(草村礼子)から死亡届の提出を提案されたときに言った言葉「俺があの判子を押したら、俺がこの手で美波を……」。安達奈緒子脚本は、安易に「前に進もう」と救いを与えず、震災を受け入れることのできない者がいる現実を、新次を通して丹念に描き続けてきた。そして、新次がたどり着いた答えは「無理に元には戻らなくてもいい」ということ。美波がいた頃のように、もう一度漁師に、ではなく、美波と亮と過ごした時間を大切に思うからこそ、死を受け入れて新しい生き方を歩む。死亡届に判を捺すことでついに及川親子が解き放たれたのだ。
それにしても、判を捺す間際に映し出された新次のこれまでのハイライトシーンのなんと凄まじかったことか。美波がいた頃の屈託なく笑う顔から、アルコール依存症でボロボロになった姿、そして現在の再び光を灯した目まで、浅野忠信の変化にただ唸るしかない。亮役の永瀬廉との対峙シーンは、15分という朝ドラの枠を超え、映画のような濃密な時間がいつも漂っていた。第113話の最後に新次が美波に向けて言った「ありがとう。さようなら」。今までのどのセリフよりも切なく、優しい感情に、浅野忠信の役者としての凄さが凝縮されていた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK