柳楽優弥、2021年に再ブレイクの兆し 『二月の勝者』で30代俳優のトップに王手?
10月16日からスタートする日本テレビ系列の土曜ドラマ『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』。“中学受験版『ドラゴン桜』”とも言える本作で、新6年生全員を第一志望に合格させると豪語するスーパー塾講師・黒木蔵人役を演じるのは、これが7年ぶりの連ドラ主演となる柳楽優弥だ。今年に入ってから主演映画が立て続けに公開されるなど再ブレイクの兆しをのぞかせている柳楽。30代に突入し、未完の大器がついに本格化といったところだろうか。
もっとも、柳楽優弥という俳優が圧倒的な才能の持ち主であることは、その名が世に知られた瞬間から明白であった。実質的な俳優デビュー作である是枝裕和監督の『誰も知らない』で柳楽は、日本人俳優として初めてカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞。世界三大映画祭の男優賞を日本人俳優が受賞したのはヴェネチアの三船敏郎以来の快挙で、しかもカンヌ史上最年少の14歳での受賞。同じ年のコンペ部門で選考対象だった作品の男性俳優の顔ぶれを見れば、なおさらその凄さが際立つ。
同作で柳楽が演じたのは、親から置き去りにされて幼いきょうだいたちの面倒を見ながら生きる術を模索していく主人公の少年役。後々『万引き家族』の高評価でより注目を集める是枝監督流の子役演出が存分に活かされた作品であり、子供たちに演技らしい演技をさせないように台本を渡さず、現場で生まれる自然体の姿をキャメラに収めたというのは有名な話だ。柳楽は主人公として物語が自身の視点から描かれるという大役を担いつつ、セリフや動作、また撮影期間中に身体的な成長を遂げるという幾つものナチュラルのなかに、徐々に瞳の奥の光が消失していく演技を巧みに組み込む。
演技経験の浅さを逆手に取った是枝流の演出によって、そのポテンシャルが余すところなく引き出されたことで、あまりにも見事なキャリアの滑り出しとなったことは言うまでもない。しかしその反面、以後コンスタントに出演作がありながらも『誰も知らない』で見せた鮮烈さをなかなか上回ることはなかったのも事実であろう。それは子役時代に成功した俳優の多くが直面する壁なのか、それとも“カンヌ俳優”という期待値の大きさと日本映画界がそれに見合う作品を作れなかった弊害なのか。いずれにせよ、『包帯クラブ』や『爆心 長崎の空』といった佳作がありながらも、安定感のある演技をするごく一般的な演技派俳優に落ち着いてしまうのである。
それまでほぼ“映画俳優”としてキャリアを重ね、テレビドラマへの出演はカンヌ以後ではWOWOWドラマの出演やゲスト的立ち位置のみだった柳楽にとって、大きな転機となるのは2014年のドラマ『アオイホノオ』(テレビ東京系)での主演だ。すでに『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)で深夜ドラマ界を牽引していた福田雄一が、漫画家・島本和彦の学生時代をモチーフにした自伝的作品を実写化した作品で、柳楽は漫画家を志して芸大に通う主人公・焔モユル役を文字通り熱演。いかにもコミック的な演技が意外なほどにハマり、かつ黒島結菜や大水洋介といった当時まだ演技経験が浅かった俳優たちも引き立てる器用な座長ぶりを発揮。柳楽の演技力の高さをわかっていても驚くほどの圧倒的なコメディ適性の高さには“魅了される”を超えた“中毒性”があり、筆者も定期的に当時録画した放送を見返してしまうほどだ。