“普通の人”を演じさせれば天下一品 重岡大毅が醸し出す悲哀とおかしみ
2016年に公開された映画『溺れるナイフ』では、狂逸で荒々しい航一朗(菅田将暉)に惹かれ依存し続ける夏芽(小松菜奈)を想い、決して夏芽が自分のものにはならないとわかりつつも、傷ついた彼女に寄り添い続ける大友を好演した。エキセントリックな主人公2人とは好対照に、「どこかの田舎の島にいそうな男子」を見事に演じ切った。東京へ行く夏芽を見送る大友がカラオケで「俺ら東京さ行ぐだ」を熱唱するシーンは、青春映画史上に残る名シーンと言っていいのではないだろうか。
『宇宙を駆けるよだか』(Netflix/2018年)では、同じくジャニーズWESTのメンバー、神山智洋とともにW主演を務め、これまた「自分とは違う男に惹かれる女性を想い、隣で支える男」火賀俊平を演じた。重岡はこういった「報われないひたむきな男」役が絶妙に似合って、なんとも言えない切なさを醸し出す。老若男女問わず、本作を観た視聴者が俊平に「惚れてまうやろ!」となること必至のハマり役だ。
『これは経費で落ちません!』(NHK総合/2019年)では主人公・沙名子(多部未華子)に想いを寄せる世渡り上手な営業部員・山田太陽を、『知らなくていいコト』(日本テレビ/2020年)では婚約者であったケイト(吉高由里子)が殺人犯の娘だと知って彼女と別れる卑小な編集者・春樹を演じ、「普通」で「いそう」な存在感でありながら、ドラマにアクセントをもたらし、バイブレイヤーとしても着実に結果を残していった。
これまでにジャニーズが輩出した俳優といえば、いわばアイドルの延長線上にある演技であったり、どんな役を演じても持っているスター性がにじみ出てしまうタイプの俳優が多かった。重岡はどの先輩ジャニーズ俳優とも似ておらず、いっさいの“スター性”に蓋をして「ごく普通の人」になりきれる稀有な俳優だ。
「フィクション」の世界の中において「生きる人間」としての説得力が群を抜いている。「普通に生きて、生活している人間」だからこその「悲哀」や「おかしみ」が宿っている。重岡の、嘘のない、共演者と呼応するような芝居が印象的だ。『#家族募集します』で息子の陽を演じる佐藤とのかけあいはまさに「呼応」で、その空気感が他の共演者たちにも伝搬しているように感じられる。今後も俳優・重岡の活躍に、そして、作り手たちが今度は彼にどんな役を着せるのかにも期待したい。