ついにMCU入り! 俳優だけでなく脚本家の顔も持つオーウェン・ウィルソンの素顔

コメディ以外の魅力も満載のO・ウィルソン

 マーベルの実写ドラマ『ロキ』が、6月9日からDisney+(ディズニープラス)で大好評配信中だ。本作は配信初日にアメリカで89万世帯が視聴するという、Disney+史上最高のオープニング成績を樹立したことでも注目されている。トム・ヒドルストン演じる人気ヴィランであるロキが、時空を超えて凶悪犯罪者の捜査に協力するというストーリーでキャラクターの魅力がさらに深堀りされ、ファンを熱中させているのだ。ロキのキャラクター性を深堀りするうえで、本作には重要な新キャラクターが登場した。それがオーウェン・ウィルソン演じるTVAのメビウス捜査官だ。短いシルバーヘアのメビウスは、その見た目だけでなく、キャラクターとしても彼が今まで演じてきた役とは少し違っている。ここでは、『ロキ』でMCU入りを果たしたオーウェン・ウィルソンのフィルモグラフィーを振り返りながら、その魅力に迫っていこう。

決してコメディだけではない出演作の数々

 テキサス州ダラスにて、アイルランド系アメリカ人の両親のもとに生まれたオーウェン・ウィルソンは、ニューメキシコ州の軍隊高校を卒業後、テキサス大学オースティン校に進学する。大学在学中に彼はウェス・アンダーソンと出会い、彼の商業映画デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996年)の脚本を共同執筆した。同作でアンダーソンはMTVムービー・アワードの新人監督賞を受賞し、映画監督としてのキャリアを切り拓いていく。一方のウィルソンは同作でメインキャストとして俳優デビューを飾り、その後『アルマゲドン』(1997年)に出演するなど、順調にキャリアを築いていくことになる。

 オーウェン・ウィルソンといえば、“少し軽率で陽気な兄ちゃん”といったイメージが強いのではないだろうか。彼の出演作でよく知られているのは、『ナイト ミュージアム』シリーズなどのファミリー向けコメディや、『ズーランダー』シリーズ、『ウエディング・クラッシャーズ』(2005年)などのおバカなドタバタコメディだろう。いずれにしろ、一般的には彼はコメディ俳優と見られることが多いように思う。しかしそのフィルモグラフィーを振り返ると、彼は決してコメディがメインの俳優ではないことがわかる。

映画『ミッドナイト・イン・パリ』予告編

 ジャッキー・チェンと共演し、大ヒットを記録したアクションコメディ『シャンハイ・ヌーン』(2000年)の次にオーウェン・ウィルソンが出演したのは、シリアスな戦争映画『エネミー・ライン』(2001年)だ。終結間近の旧ユーゴスラビアの民族紛争を舞台とした同作で、彼はNATO軍に所属する米海軍大尉クリス・バーネットを演じた。ボスニア上空からの撮影任務を命じられたバーネットは、任務の最中、和平合意に反して集結していた武装勢力から攻撃を受けて不時着。そこでセルビア人民軍の犯罪を目撃し、その情報を持ち帰ろうと救出ポイントに向かうが、敵陣を移動するなかで彼は何度も命の危機に直面する。名優ジーン・ハックマンと共演した同作で、オーウェン・ウィルソンは戦争犯罪を告発するため、決して諦めないバーネット大尉を熱演している。ハックマン演じるレイガート司令官との口論シーンなどでは、真に迫った大御所に負けない演技を披露しているのだ。

 また2011年には、ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』で主演を務めた。同作で彼が演じたのは、ハリウッドで脚本家として成功を収めながら、小説家を目指して悪戦苦闘しているギル・ペンダーだ。ウディ・アレン自身を写し取ったようなギルのキャラクターは、コメディ映画でウィルソンが見せる陽気なイメージとは真逆の、鬱屈した雰囲気を漂わせている。真夜中に現代のパリと憧れの1920年代のパリを行き来するなかで、彼は次第に現実と自分自身を見つめていく。その静かながら確かな心の動きを、ウィルソンは繊細な演技で魅せてくれる。

『クーデター』(c)2015 Coup Pictures, LLC. All rights reserved.

 その後も『ウエディング・クラッシャーズ』のヴィンス・ヴォーンと再びタッグを組んだ『インターンシップ』(2013年)や『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(2014年)、そして『ズーランダー NO.2』(2016年)など、コメディ作品の合間を縫うようにして、彼はさまざまなジャンルの作品に出演している。そしてこのあたりから少しずつ増えてきたのが、父親役だ。2015年のアクションスリラー『クーデター』では、新たに赴任した東南アジアのある国でクーデターに巻き込まれ、家族を守りながら国境への脱出をはかる主人公を演じている。2017年の『ワンダー 君は太陽』では、遺伝子疾患で変形した顔を持つ息子を、明るく励ましながらそっと背中を押す、愛情深い父親を演じた。こうして見ると、オーウェン・ウィルソンはシリアスからコメディまで、硬軟幅広くさまざまな役を演じ分ける俳優だということがわかる。

コメディ作品でのイメージに反する素顔

『ワンダー 君は太陽』(c)2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

 実は“少し軽率で陽気な兄ちゃん”というコメディ作品でのイメージは、実際のオーウェン・ウィルソンとはかけ離れていると言っていい。撮影現場では真面目で誠実な性格をうかがわせるエピーソードがいくつもある。『シャンハイ・ヌーン』では、妻子持ちの自身のスタントマンが女遊びをすることについて非難したというエピーソードが語られているし、『ウエディング・クラッシャーズ』の際にも、自身が演じた役柄について「こんなバカげたことはせいぜい20代まで」と発言した。また朋友ウェス・アンダーソンは『ライフ・アクアティック』(2004年)公開時のインタビューで、俳優としての彼について「彼がコメディ俳優になるなんて思っていなかった」と証言している。またお気に入りの作品として『エネミー・ライン』を挙げ、「もっとああいう役に挑戦したらいいのに、と思う」とも語った。そして『ライフ・アクアティック』でウィルソンが演じたネッドは、誠実で優しい青年だった。この役には、アンダーソンの彼に対するイメージが現れていると思われる。2007年8月には自殺未遂で世間を騒がせもしたが、その2カ月後の『ダージリン急行』のプレミアでは元気な姿を見せた。この件についてはなにも語られていないが、繊細な性格がそうした事態を招いたのだろう。

 また彼には、脚本家としての才能もある。先述の『アンソニーのハッピー・モーテル』と同様に、『天才マックスの世界』(1998年)や『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)で彼は、やはりアンダーソンと脚本を共同執筆している。アンダーソンによれば、自身がゼロから物語を作るのを好むのに対して、ウィルソンはそれを読んで問題点を改善するのが得意なのだという。さらに『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』はアカデミー賞脚本賞にもノミネートされた。俳優業の忙しさから、最近はあまり脚本家としては活動していないが、またいつか彼が脚本を担当した作品も観てみたい。

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