『向こうの果て』で女優・松本まりかの真骨頂を堪能 松下洸平や観る側を呑み込むその魔力

『向こうの果て』に溢れる松本まりかの魔力

 毎週金曜23時~放送・配信中の『WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て』は、大ブレイクを果たした女優・松本まりかの真骨頂と呼べる演技を思う存分堪能することができる作品になることを、まず初めに断言しておいてもいいだろう。

 物語の舞台となるのは昭和60年の東京。マンションの一室が放火され、君塚公平(松下洸平)という小説家が死亡する。逮捕されたのは、被害者の幼なじみである池松律子(松本まりか)という女だった。事件を担当することになった検事の津田口(柿澤勇人)は、事件の真相を探るためにこれまで律子と関わってきた人物と接触していくのだが、彼らの証言を得ていくうちに、律子が歩んできた数奇な人生を知ることとなり、やがて彼女の持つ不思議な魅力に翻弄されていくこととなる。

 まだ導入部分となる第1話でも、松本演じる律子という女の圧倒的な魔性ぶりが、ここぞとばかりに発揮されていく。検察の取調室での律子と津田口のやり取りを軸として、事件が起きる直前、場末のスナックで働きながら公平に対して豹変した態度で暴力を振るう、“夜叉のような女”としての律子の一面。そして故郷の青森の村で公平ともうひとりの幼なじみである村上(加治将樹)に支えられるようなかたちで過ごした幼少時代の回想。こうしたいくつものパズルのピースが、どのような経緯で事件へと繋がるのかという輪郭すら見えずとも、律子というひとりの人間が背負ってきたあらゆる“負の記憶”が積み重なっていくのであろうと予測できる。

 いくつもの素顔を持つ殺人犯の女と、彼女を取り巻く過去の男たちを知り、次第に呑み込まれていく若き検察官の男。その関係性からはまるで『羊たちの沈黙』や『CURE』のような空気を感じてしまう。取調室で俯きながら妖しい笑みを浮かべ、ぼそぼそと相手の意表を突くような言葉を呟いたかと思えば、回想シーンではくたびれ果てた表情で感情を爆発させていく。“静”と“動”を巧みに操り抜いた果てに、穏やかな表情でまっすぐとカメラを見つめる第1話のラストカット。これは画面越しに観る側も、思わず呑み込まれてしまいそうになってしまう魔力があふれているではないか。

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