『有村架純の撮休』で8通りの“自分”を演じきる、有村架純の“余白”を生む演技
現在放送中のWOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』で、主演の有村架純を演じている有村架純。こう書くとなんのこっちゃだが、事実なのだから仕方ない。何せ本作は、「女優・有村架純は突然の“撮休”(ドラマや映画の撮影中の休日のこと)をどう過ごすか?」をテーマに、映画、テレビ、CM、舞台など各界のクリエイターたちがそれぞれの妄想を展開するオムニバスドラマ。ある時は実家の母と過ごし、またある時は人間ドックへ行き、開かない瓶のふたに悪戦苦闘することもあれば、バッティングセンターでフォームに悩む客にアドバイス。そんな、オフの日の有村架純をユーモラスに見つめていく。実在の人物が本人役を演じる物語はフェイクドキュメンタリーなどと呼ばれるが、本作もそのひとつ。過去には遠藤憲一や松重豊らが出演した『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(テレビ東京系)や、『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)などが話題となったが、ひとりの女優の素顔を1話完結型で切り取っていくというアプローチが新鮮だ。国民的女優の休日の姿、気にならないわけがない。
2010年に『ハガネの女』(テレビ朝日系)で女優デビューし、今年で10年。今や、押しも押されぬトップスターの地位を手に入れた有村架純。ブレイクのきっかけといえば、やはり2013年放送の連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)だろう。主人公・天野アキの母、天野春子の若かりし頃を演じ、世間の注目を浴びた。その後は続々と出演作を増やし、『映画 ビリギャル』では、金髪&ギャルメイクの女子高生を天真爛漫に演じ、『ひよっこ』(NHK)では高度経済成長の時代に、上京してきた純朴な田舎娘を、そして『中学聖日記』(TBS系)では教え子と禁断の恋に落ちる女教師に扮するなど、さまざまな顔を私たちに見せてくれた。あどけなさの残る少女から大人の色香漂う女性像まで演じ分ける技量はもちろんだが、たとえば『ひよっこ』の際には役作りのために自ら進んで体重を増量させたほどの、ガチンコの女優魂の持ち主。その裏には、学生時代からアルバイトをしつつ女優を目指し、幾度となくオーディショに落ち続けたという経験があったことを忘れてはならない。華々しく主演映画デビューを飾る若手女優も多い中、有村架純のこれまでは決して順風満帆なばかりではなかったのは確か。だからだろうか、彼女からは“女優”であるという意識が人一倍強く感じられる。
『有村架純の撮休』で、1話目の「ただいまの後に」と3話目の「人間ドック」を手がけた是枝裕和監督はこう語る。
「有村さんって、お芝居も佇まいも非常に端正で、すごく澄んでいる。でもきっとどこかに優等生的ではない何かもあって。それがちょっとだけ見えるとゾクッとする」(引用:マイナビニュース|是枝裕和監督、有村架純の魅力を語る「声に『にじみ』がある」)
ルックスはもろ清純派、演じる役柄も健気で一途な女性が多いイメージだが、反面、どこかつかみどころのないような危うさを有村の演技は秘めている。事実、是枝監督の撮った「ただいまの後に」では、実家に帰省した母とのやりとりが描かれるが、台所で食事の準備を手伝う際のちょっとした仕草、目線の送り方にほんの少しの違和感を忍ばせていた。ドラマの中では、それが一家が抱えるある罪に由来するものだとわかるが、セリフに表さずとも観る側に何かを訴えかけるような演技は、有村のこれまでの作品にも見ることができる。たとえば『ひよっこ』のみね子は笑顔の裏に誰にも言えない哀しみを、『ナラタージュ』の泉は切なさの裏に抑えきれない激情を、常にまとった芝居が印象的だった。役柄にこちらの想像が入るスキを与えてくれる演技、もとい“余白”を生む演技は、緻密な役作りの賜物か、はたまた天性の反射神経の良さか。もしかしたらその両方かもしれないが、彼女の演技の凄みはこの“余白”にあると『有村架純の撮休』を観て改めて実感した。