『流行感冒』が視聴者に突きつける問い 本木雅弘の心情の変化を通じて教えてくれること

『流行感冒』が問いかけてくるもの

 志賀直哉による同名小説を原作に、大正時代に大流行したスペイン風邪をテーマに描いたドラマ『流行感冒』が、4月10日21時からNHK BSプレミアムで放送される。

 スペイン風邪は1918年から1920年にかけて全世界で6億人が感染し、日本では当時の人口のおよそ半数が罹患、国内の死者は40万人前後にも及んだ。スペイン風邪と新型コロナウイルスーー近代以降に起きたこの2大パンデミックは、状況がよく似ていると言われる。スペイン風邪流行の只中、100年前に原作が書かれたこの物語は、コロナ禍に生きる私たちにどんなメッセージをくれるのだろうか。

 『マンゴーの樹の下で〜ルソン島、戦火の約束〜』(NHK総合)や『すぐ死ぬんだから』(NHK BSプレミアム)などを手掛け、舞台『ゲルニカ』の戯曲が第65回岸田國士戯曲賞の最終候補作品に選ばれた長田育恵が脚本を担当した。『花子とアン』(NHK総合)、『夢食堂の料理人〜1964東京オリンピック選手村物語〜』(NHK総合)などの演出を経て、本作の監督を務める柳川強は、昨年4月の緊急事態宣言発出当時に原作を読み、「人の心理状態や行動は今のコロナ禍と全く変わらない、と感じ、映像化したいと思いました」(しんぶん赤旗記事より)と語る。柳川の言うとおり、原作小説の時点で驚くほどに現在の状況とリンクしているのだが、そこへさらに身につまされるアクチュアルな作劇が加わる。

 舞台は大正7年(1918年)、都心から離れたとある村(※原作では志賀が当時暮らした千葉県我孫子市の設定だが、ドラマ内で地名は明かされない)。小説家の「私」(本木雅弘)は、妻の春子(安藤サクラ)と娘の左枝子(志水心音)、そして2人の女中、石(古川琴音)、きみ(松田るか)の5人で暮らしていた。長女を生後すぐに亡くした経験から、もともと次女・左枝子の健康について神経質な「私」だったが、巷でスペイン風邪が流行り出してからは、さらに過敏さを増していく。ある日、芝居好きの女中・石が、大勢の観客でごった返す旅役者の巡業公演を観に行ったのではないかという疑惑が浮上する。石は行っていないと言うが、疑念を払拭できない「私」は激昂し、左枝子に近づかないよう厳しく言いつける。そして、思いも寄らない出来事から「私」の家の事態が一変する。

 未曾有で得体の知れない伝染病を前にして、いち早く神経質になる人、半狂乱になって他者を追い詰める人、感染を疑われ怯える人、最初のうちはよくわからないので楽観的な人、「どうせいつかは死ぬんだから、好きなことやったほうがいい」と開き直る人、マスクを付ける人、付けない人、目前のことにただ粛々と対処する人、自らの経営する飲食店が大打撃を食らい葛藤する人……。今まさに、コロナ禍の巷にいる人々をそのまま生き写しにしたような人物像が、ドラマの中に登場する。100年前も今も、同じ人間がどの立場にもなり得るのだ。そこであなたはどういう選択をして、どう行動するか。そんな問いを観る者に突きつけてくる。

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