長谷川博己と染谷将太は“父と子”のようだった 愛の物語としての『麒麟がくる』

長谷川博己と染谷将太は“父と子”のようだった 愛の物語としての『麒麟がくる』

 大河ドラマ『麒麟がくる』の、すべてを明智光秀(長谷川博己)と織田信長(染谷将太)の愛の物語へと収れんさせた最終回「本能寺の変」の興奮が醒めやらない。かつて大河ドラマは大御所作家の歴史小説を原作とし、英雄たちの活躍を描く重厚な歴史絵巻だった。とりわけ群雄割拠の戦国時代を描く大河は群像劇の様相を呈し、大がかりな合戦シーンが見どころだったことは言うまでもない。『麒麟がくる』では幾つかの有名な合戦シーンが省略されたが、コロナ禍のせいばかりではなかったことが最終回ではっきりした。この大河が描きたかったのはそこではなかったのだ。

 『麒麟がくる』が光秀と信長の愛の物語に着地したことは既にネット上でも多く指摘されている。では、それはどういう愛だったのだろうか。ここではそこを掘り下げてみたい。

水の人=明智光秀 火の人=織田信長

 終盤に際立ったのは、信長の絶望的な孤独である。安土城の途方もなく広い大広間で松永久秀(吉田鋼太郎)が仕掛けた罠である「平蜘蛛の茶釜」をめぐり光秀と対峙するシーンでは、両者の埋めようもない距離が可視化され、妻・帰蝶(川口春奈)にも去られて広大な空間に独り取り残される信長の空虚な姿が象徴的だった。何が信長をそこまで孤独にしてしまったのか。

 日の光で赤く染まった海の彼方から小舟に乗って現れる信長の登場シーンは印象的だった。この時の信長は、最終回で光秀が振り返るように、「海で獲った魚を安く売り多くの民を喜ばせる」心優しい若者だった。ここで海から現れたことは重要だ。なぜなら、このドラマでは一貫して「水」は光秀を表していたからである。最終回、本能寺で赤い血を流しながら燃え盛る火に包まれる信長と、早朝の淡い光を浴びて水色桔梗の旗をはためかせる明智軍の青みがかった軍勢、とりわけ水色をあしらった陣羽織を身につけた光秀との対比は鮮烈だった。

 光秀は初回の登場シーンから水色の衣裳に身を包んでいたことからも、水色はトレードマークだったと言える。光秀は、いわば「水」の人なのである。水は智将・光秀の理性や知性、清廉さを表すとともに、不定形でどの器に注ぐかで形を変える性質を表しているのだと思う。斉藤道三(本木雅弘)、朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)、足利義昭(滝藤賢一)、織田信長と四人の主君に使え、その都度形を変えながら、“麒麟がくる”平らかな世を造るという夢に向かったのだ。しかし初回で光秀が鉄砲を求めて旅をすることも無視できない。鉄砲とは火縄銃である。火を求める水の人・光秀と海から現れた火の人・信長は、相反する性質であるがゆえにもっとも近しい関係でありえたはずだ。二人はどこですれ違ってしまったのか。

光秀は唯一と言ってもいい“幸福な息子”

 信長の変調は、第9回に顕著に表れる。褒められたい一心で竹千代(後の家康)の父・松平広忠(浅利陽介)の首を父・信秀(高橋克典)に差し出すが、父には逆に「このうつけが!」と罵倒される。父にも母にも愛されなかった寂しさが信長の原点にはある。考えてみれば、この大河で父に愛されなかった武将は信長だけではない。初回から、斎藤道三と息子・高政(後の義龍、伊藤英明)との確執が描かれ、それはついに高政が父を打ち滅ぼす長良川の戦いに至る。二人の直接対決において、道三が、実の父は土岐頼芸(尾美としのり)であると信じる高政に「そなたの父の名を申せ」と迫るシーンはどこか『リア王』を思わせて圧巻だった。また、風間俊介演じる徳川家康も父を嫌悪する人物として描かれる。父への愛憎は『麒麟がくる』に通底するテーマの一つだと言えるだろう。

 では、光秀はどうか。実は光秀は彼らとは対照的に、二人の父に愛され、メッセージを託された息子として描かれている。一人は道三だ。息子・高政との確執とは裏腹に、道三は優れた知性と行動力を備えた十兵衛(後の光秀)を信頼し、戦乱の世を終わらせる「大きな国を造れ」というメッセージを託す。だから十兵衛はリア王の末娘コーディリアよろしく明らかに劣勢な道三に加勢するのだ。また、光秀の実父はドラマ開始時点で既に他界しているため画面に現れることはない。しかし、架空の人物でありながら重要な役割を果たす駒(門脇麦)から、「平らかな世をもたらす人は麒麟を連れてくる」という父からのメッセージを間接的に受け取っている。「大きな国を造る」ことと「麒麟がくる平らかな世を造る」という、二人の父から受け取ったメッセージは、終始一貫して十兵衛光秀の目標となり、あらゆる行動の動機として彼を突き動かす。その意味で光秀はこのドラマで唯一と言ってもいい、幸福な息子なのだ。だから光秀には信長の孤独が理解できなかったのではないだろうか。

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