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“たかやな”を山田裕貴にオファーした理由

 また、高柳役に山田裕貴を選んだ理由については、こう話す。

「僕が連続テレビ小説『なつぞら』の演出をやっていたとき、雪次郎を演じていた山田さんの印象が人間的に『たかやな(高柳)っぽいな』と思ったんです。『なつぞら』17週で雪次郎くんは、劇団でチェーホフの『かもめ』のトレープレフ役に抜擢されます。その週の演出担当だったんですが、劇中劇『かもめ』をやるときの雪次郎くんのお芝居について、山田さんとすごく楽しく議論したんですよ。作品はもちろんそこで終わっているけど、山田さんとの議論は続いたままの印象があって。人間的に高柳な匂いのする方だなと思ったし、このドラマは届ける側・作る側も“哲学”しないといけない、一緒に悩まないといけないところがあったので、山田さんにオファーしました」(渡辺)

 今回は、全員オーディションで選ばれた10代を中心にした生徒役との「対話」がドラマの軸となる。そのため、10代の子たちの芝居によって、リアクションが変わるところなども面白いところだったと語る。

「撮影前には、どこまで高柳がストイックたるべきかみたいなことを山田さんと話していたんですよ。第2話は、母子2人暮らしで、母親が仕事から帰ってくるのが遅く、家に帰っても誰もいないから、仲間と夜中まで遊び歩く幸喜くん(渡邉蒼)の話。クライマックスは電話越しのシーンで、幸喜くんの近くで実際に掛け合って芝居してもらいました。撮っていく中で、電話越しで相手に顔が見えないからこそ、感情の出しどころなんじゃないかなとも感じていたら、山田さんの芝居も優しさがほのかに出ていました。抑えている中にも、生身の山田裕貴の熱量が出てきてしまうところがある。山田さんが意識して出した部分もありますが、幸喜くんによって変わったところもあると感じました」(渡辺)

 第4話では、高柳にとって因縁がある、”性悪説“のジュダ(成河)が登場する。成河は演劇界では大変人気のある役者だが、彼の迫力ある長台詞と、互いに一歩も譲らない高柳との”善と悪“の対話、異なる“正義”のぶつかり合いは、まるで演劇を観ているようだった。

「成河さんは旧知の仲で、連続テレビ小説『マッサン』のときにもご一緒したんです。良くも悪くも独特の強い存在感がある、目を引く人なんですけど、逆に演劇で観るような凄さを映像で生かすには、役が問われるところもあります。その点、ジュダは彼の演劇で持つ存在感を遠慮なく出してもらって良い役だと思いました。特に舞台『エリザベート』(2019年)で彼が演じたルキーニ役が本当に素晴らしくて、ルキーニをカメラの前でやってくれればと思ったんです。あのセリフ量と難しい言葉をちゃんと届けるのは一筋縄ではいかないし、すんなりカウンターを越える仕草なども、やはりすごいなと。彼だからやれちゃうことがたくさんあるので、欲張っていろいろお願いしました(笑)」(渡辺)

 ジュダの存在感は大きく、セリフ回しも巧みで説得力があるだけに、“人間が本来悪である”主張は、すんなり心に入り込んでくる。しかし、引き留めるのが、山田裕貴の静かながらも熱い受けの芝居だった。

「ジュダのあのまくしたてる感じのセリフ回しも、それを受ける高柳の表情も、リハよりも本番でさらに“上がってくる”感じがして、見ていてドキドキしましたね。原作でもセリフ量は圧倒的にジュダが多いんですが、高羽さんが高柳のセリフをうまく足してくれ、山田さんが必死に踏ん張ってくれたことで、拮抗した関係性が保たれました。『問い続けます』と語り、自然に1、2歩前に歩くのは山田さんのアイデアで、相手役の作る緊張感に必死で立ち向かってくれたと思いました」(渡辺)

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