『ここは今から倫理です。』を“学園モノ”として描いた意義 演出&制作統括に聞く

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ある種の“夢”が描かれている

 また、第1話のメイン生徒の一人・恭一(池田優斗)の叫びから始まる長回しのワンカットも、第3話で時代(池田朱那)の叫びから始まるシーンも、照明などを含めて非常に演劇的な魅力があった。そこには「主役が毎回変わるため、主役を際立たせるために様々な手札を使って行こう」という狙いがあったそうだ。

 ところで、本作には哲学・倫理教師の神戸(ごうど)和佳子先生と向井哲和先生による「高校倫理考証」もついている。制作統括の尾崎裕和氏は言う。

「原作にある話はどれも今の高校生にも響くテーマだと思うんですが、それをどうリアルにするか。高校生だけじゃなく、観ているみんなに響くようにするにはどうすればいいのか。最初に僕が考えたのは、実際に倫理の先生たちに話を聞いてみようということでした。そこで、(演出)渡辺さんと一緒にたくさんの倫理の先生に実際に取材をし、その中からドラマの内容についてより深くご相談したいと、お2人にお願いしました。神戸先生に言われたのは、『倫理の先生が主役の物語は他にないから、凄く期待している』ということ。また、倫理の先生から見てリアルな点、ドラマならではの点があるそうで、『本当に生徒とこんなふうに対話できたらいいなと思う。ある種の夢みたいなものが描かれている』と言っていただきました」(尾崎裕和/以下、尾崎)

 本作は原作同様に、生き方、人生、人間の普遍的なことが「学園モノ」として描かれている。「学園モノ」として描く意味について、尾崎・渡辺両氏はこう語る。

「人間が2000年以上かけて考えてきたことが、実は普通の日常生活、学園生活の様々なことにつながっているということ。生徒の個人的なエピソードだけど、それは実はずっと人類が考えてきたことで、大人である僕らにとっても普遍的で重要な問題だということが、“学園モノ”というかたちで描くことによって、より深く響くと思います」(尾崎)

「舞台は学校だけど、社会や世の中の話をしていること。学校っていうのは本来そういうところで、人生や社会で生きていくことと決して無縁じゃない。それが社会全体という広い舞台ではなく、学校を舞台に描くことによって、より色濃くテーマが際立つのではないかと思います」(渡辺)

 また、Twitterで140字フルに使った長い感想をつぶやく人が多いというのも、この番組ならではの現象だ。

「例えば、第3話の主役・時代(ときよ)が、コンプレックスを抱えているゆえに先生に悪いことをする話について、『時代の気持ちもわかる』という感想が多かったのは、嬉しかったですね。悪い生徒が悪いことをして懲らしめられましたという話じゃない。それがちゃんと響いてくれる人がたくさんいたのは嬉しかったです」(尾崎)

「意外だったのは、放送する前は静かな回だと思っていた第2話の反響が大きかったこと。視聴者にわかりやすく届けたい一方で、簡略化しすぎないことを大事にしていて。第2話の場合、深夜に帰宅するお母さんは、ちゃんと子供のことを気にかけて生きているお母さんなんですよね。親がネグレクトというような話のほうがわかりやすいけど、そうじゃない、漠然としたモヤモヤがあるのが、原作でも面白いところ。高羽さんもそこを丁寧に描いてくれていて、電話で先生と生徒が話すだけのシンプルな構成であるにもかかわらず、キルケゴールの『不安は自由のめまいだ』という言葉が響いたという人がいっぱいいたようです」(渡辺)

 最後に、最終回を目前として、今後の見どころを2人に聞いた。

「毎話それぞれの生徒が主役になっていますが、シリーズ全体として見ると、高柳の物語になっている視点を持つ原作の選び方をしています。高柳という人が最終話に向けてどう見えてくるかを楽しみにしていただければと思います」(尾崎)

「生徒たちの成長が毎話描かれる中、第4話あたりから生徒同士が絡む場面もだんだん出てきました。生徒同士の軸ができてきて、教室のシーンでもいろんな生徒の顔が見えてきています。編集マンは、『最後の方をつないでいると、“アベンジャーズ”みたいな気分になる』と言っているんですよ(笑)。大きな事件はありませんが、単発で見てきた主人公たちが一堂に会して行く様を楽しんでいただきたいです」(渡辺)

■放送情報
よるドラ『ここは今から倫理です。』
NHK総合にて、毎週土曜23:30~放送【全8回】
出演:山田裕貴、茅島みずき、池田優斗、渡邉蒼、池田朱那、川野快晴、浦上晟周、吉柳咲良、板垣李光人、犬飼直紀、杉田雷麟、中田青渚、田村健太郎、梅舟惟永、異儀田夏葉、藤松祥子、川島潤哉、三上市朗、陽月華、山科圭太、木村花代、古屋隆太、成河
脚本:高羽彩
原作:雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。』
制作統括:尾崎裕和、管原浩
音楽:梅林太郎
演出:渡辺哲也、小野見知、大野陽平
写真提供=NHK

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