山田裕貴だからこそ成立した高柳の佇まい “善悪”を問い直す『ここは今から倫理です。』

善悪を問い直す『ここは今から倫理です。』

 雨瀬シオリの漫画原作を、山田裕貴主演で実写化した、NHKよるドラ『ここは今から倫理です。』が放送中だ。

 山田演じる高柳は、ある高校の倫理の教師。第1話の授業のシーンで「倫理は学ばなくても将来、困ることはほぼない学問です」「この知識がよく役に立つ場面があるとすれば、死が近づいてきたときとか」と生徒たちに語りかける。

 一般的な倫理の話をすると、どこか苦手意識を表す人も存在するだろう。それは、自分の中の「正しくないこと」を誰かの一方的な善悪の判断で「正される」ようなイメージがあるからかもしれない。これは倫理に限らず、ポリティカル・コレクトネスなどに対しても「偽善」と捉える人はいいて、同様の態度をとる人がいるように思う。しかし、それは果たして「偽善」なのだろうか。

 毎回、このドラマに登場するのは、悩める高校の生徒たちだ。第1話では、性に奔放な女子生徒が、男子生徒と放課後の教室内で性行為をしている場面が冒頭から示される。そこにいきなり高柳が登場し「合意ですか」「悪いこととは言いません。真剣なお付き合いなら結構。ただ時間と場所が悪い」と静かなトーンで語りかける。

 この女子生徒は、それ以来、高柳に興味を持ち、彼の薦める本を図書館で借りたりして変わろうとする。しかし、それまで付き合ってきた男子生徒は彼女が変わろうとすることをよく思わず「そういうキャラじゃねえだろ」「最近つきあい悪いだろう」と阻み、そして以前と同様に、彼女に性行為を迫る。

 そのときにわかるのが、彼女が性行為を受け入れていたのは、男性たちが性行為をしているときだけは怒らないで喜んでくれるからというものだった。彼女は高柳の二度目の「合意ですか」という問いかけに対して、やっと「違う」という声を発することができたのだった。

 第4話では、ある男子生徒の兄が半グレの組織に関わっており、生徒自身もその組織に連れ去られてしまうという出来事があり、高柳はその場に乗り込む。その生徒自身には、悪に染まりたいという欲求はなかった。しかし、兄が好きだった彼は、兄のしていることも何が悪いか考えたくなくて、流されるままに悪に取り込まれた。高柳は男子生徒に「ちゃんと考えなさい。自分にとって何が善か悪かくらい」といつになく強い口調で責め立てる。

 このシーンを観ていると、たくさんの差別発言をした人物たちが、自分には「悪気はない」と言ったり、また周りの人間も「普段の彼はすごくいい人だから」ということで、擁護するものが多いことを思い出す。しかし、「悪気がない」とか「いい人である」ことで、その出来事の是非について思考停止させていたのだと気づき、はっとせずにはいられなかった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる