“空手バカ一代”になれない人間たちの物語 『コブラ会』シーズン3の爆発的なカタルシス
「片眉を剃れ!」。もしも故・梶原一騎先生が『コブラ会』シーズン3を観たならば、必ずやそう切り捨てたであろう。しかし、もしも傍らに私がいたならば(数発殴られるのを覚悟で)梶原先生を止める。「待ってください。その『片眉を剃れ!』という気持ちが、カタルシスを生むのです」……と。
『コブラ会』(2018年~)は『ベスト・キッド』(1984年)の極上の続編である。オールバレー最高の少年空手家を決めた、あの戦いから30数年。ミヤギ道空手を継ぐ若き達人ダニエルさん(ラルフ・マッチオ)、その宿敵であり凶悪空手集団コブラ会のエースだったジョニー(ウィリアム・ザブカ)、2人はどちらも中年に差し掛かっていた。人生が燻りまくりのジョニーは、一発逆転と若き日への郷愁からコブラ会を再始動させる。しょっぱい船出から始まったコブラ会であったが、徐々に弟子は増えてゆき、遂には一大勢力へ成長。ジョニーもまた愛弟子ミゲル(ショロ・マリデュエニャ)と共に、子どもたちを導く先生として変化してゆく。しかし、力を持ったコブラ会は次第に過激化してゆき、元祖コブラ会の先生クリース(マーティン・コーヴ)の帰還も決定打となって、完全な暴力集団に堕ちてしまうのだった。コブラ会の暴走を憂慮したダニエルさんは、故ミヤギさんの意志を継いたミヤギ道空手の道場を開き、コブラ会の横暴に耐えかねた少年少女らが集い始める。かくしてコブラ会vsミヤギ道の空手大戦争が勃発。学校での大乱闘と衝撃の結末にてシーズン2は幕を閉じた。
そしてコブラ会vsミヤギ道の戦いは、シーズン3でさらに混迷を極める。人間関係はより複雑になり、キャラクターの背景は重厚になっていく。もちろんユーモアも健在だが、話がベトナム戦争にまで及ぶなど、これまでより圧倒的にシリアスだ(あとNetflix資本の介入のおかげか、目に見えて予算が増えています)。「武道の本質とは?」「暴力の連鎖はいかにして断ち切るのか?」。このジャンルにおける普遍的なテーマが深堀されていく。それゆえに、当初に物語の主軸にあった若者たち――ジョニーの愛弟子ミゲル、ジョニーの息子にしてダニエルさんの弟子となる絶妙に90年代イケメン顔のロビー(タナー・ブキャナン)、そんな2人の間を行ったり来たりするとダニエルさんの娘サマンサ(メアリー・モーサ)――の初々しい三角関係が、どうにも回り道に感じるのである。端的に言うなら、「お前らが三角関係でゴタゴタしたせいで、街中で暴行事件が起きまくりばい。あんま関係ない人の顔面ボコボコになっとるし、イチャついとる場合やなかとよ」。そして、冒頭に書いた通り、故・梶原先生が私の心の中に降りてきたのである。
かつて梶原一騎原作、つのだじろう作画の名著『空手バカ一代』にて、極真空手創始者の大山倍達は、山籠りの最中に人恋しさに襲われる。人里に降りて、女性と触れ合いたい――そんな願望を絶つべく、大山倍達は自ら片眉を剃り落とした。そして片眉のない珍妙な自分の顔を見て「これでもう人里にはおりられん! 女どもが相手をするものかあ! バカの顔だっ!!」と孤独を笑い飛ばしのである。『コブラ会』の登場人物にも、こうした大山倍達ほどの空手バカっぷりがあったなら、色恋沙汰を断ち切り1人ストイックに修行を続ける強さがあれば――という、ちょっとした歯がゆさを感じるのも事実だ。