『ベスト・キッド』ファンの期待を裏切らないクオリティ 『コブラ会』が傑作たる3つの理由

『コブラ会』が傑作たる3つの理由

 あの戦いは終わっていなかった……。と書けばカッコがいいけれど、30年以上前の高校時代のことで、中年男性2人が町中を巻き込んでケンカをするなんて、あってはならないし、傍から見れば迷惑極まりない。大人げないにも限度があるが、しかし、だからこそ面白いのである。先日からNetflixにて配信が始まった『コブラ会』(2018年~)は、あの『ベスト・キッド』(1984年)の続編であり、34年前の因縁を引きずる2人の中年男性の愛憎劇であり、武道を通じて成長していく若者たちの青春群像劇だ。

 34年前、時はまさに80年代真っただ中。ナウでヤングでイケてるカラテボーイだったジョニー(ウィリアム・ザブカ)は、地区の少年空手選手権で転校生のダニエル(ラルフ・マッチオ)にKO負けを喫する。所属していたコブラ会は崩壊し、彼女だったアリ(エリザベス・シュー)も失った。田舎の高校生の人生を狂わすには十分すぎる挫折である。そのまま大人になったジョニーはいまだに80年代感覚が抜けないまま、日雇いの仕事をこなしては、酒に溺れる毎日。妻と息子とも別居状態で、まさに人生詰将棋……なのに、かつてのライバルだったダニエルは、カーディーラーとして大成功を収め、円満な家庭を築いていた。ダニエルの活躍を知れば知るほど、これまたジョニーの飲酒量は増えるばかり。そんなある日、ジョニーのアパートに移民の少年ミゲル(ショロ・マリデュエナ)が引っ越してきた。当初は移民かよと素っ気ない態度を取っていたジョニーだが、ミゲルが不良たちにボコボコにされているのを見かけ、これはイカンと止めに入る。酒浸りでもジョニーの空手は全く衰えていなかった。ジョニーが不良グループを秒殺すると、その強さに胸を打たれたミゲルが訴えた。「僕に空手を教えてください!」かくしてジョニーはコブラ会を復活させるのだが……。

 ……もう『ベスト・キッド』ファン的には、たまらないあらすじであるし、その期待は1ミリも裏切られない。私は直撃世代ではないのだが、それでもあのワックスがけやペンキ塗りを練習した口だ。そんな私から見ても、まさかこんな幸福な続編ができるとは思わなかった。魅力がありすぎて、書き始めると何万字とかになってしまうので、今回は大まかに3つに絞って書きたい。

 1つ目、いきなり身も蓋もない話をするが、1話が短いことが本作の白眉である。1話が30分程度なのでサクサク見れる。これは製作者の賢明さを端的に表しているだろう。『ベスト・キッド』の続編で前のめりになる層は、私も含めて、もう決して若くないのである。1話で1~2時間もあると、体力がついていかない。悔しいだろうが、仕方ないんだ。しかし30分ならば話は別である。まさにワックスがけをしていたら、いつの間にか技が身についていたミヤギさん式トレーニングのように、過剰な負荷なく楽しむことができる。何はなくとも、まずは1話30分にした製作陣の英断を称えたい。

 2点目は、徹底的な『ベスト・キッド』愛だ。主要キャストは全員オリジナルキャストのままで、いわゆる「原作を知っていればニヤっとできる」的な要素も散りばめられているし、ほとんど細かすぎて伝わらない『ベスト・キッド』の見どころ選手権と化している。そして、そんな有り余るほどの愛があるからこそ、今日の視点で見たときの『ベスト・キッド』のおかしなところも適切に捉えることができているのだ。これが3つ目の魅力へとつながっていく。

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