『麒麟がくる』足利義昭の豹変ぶり 滝藤賢一が無力さゆえの葛藤を体現
光秀(長谷川博己)の身に危険が迫る。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の第35回「義昭、まよいの中で」では、将軍・義昭(滝藤賢一)が己の無力さに悩みつつも、ついに摂津晴門(片岡鶴太郎)と袂を分かつ決心をするのであった。
玉(竹野谷咲)の額の傷の手当てのために東庵(堺正章)の家を訪れた煕子(木村文乃)は、思いがけず藤吉郎(佐々木蔵之介)の母・なか(銀粉蝶)と対面する。なかは煕子が誰であるかも知らず「光秀は坂本に城を持ったにもかかわらず、幕府から妻子を人質として京に残すように言われている」という話を大声でしゃべり始めた。これに驚いたのは煕子だけではない。裏で話を聞いていた駒(門脇麦)もまた、たいそう驚くことになる。
駒は義昭の元を訪れた折に、「妻子を人質にするほど、十兵衛様を疑っているのか」と問いただす。義昭は信長を信用していないため、幕臣でありながら信長の腹心の部下でもある光秀にも心を許せず苦しんでいた。そして義昭は「摂津が光秀を斬りたいと言ったとしても、ああそうかというしかない」と口を滑らせる。摂津を憎みながらも頼るほかない義昭は、そんな自分を責めるかのように首に紐をかけると「己が口惜しい。駒、哀れな儂をいっそ絞め殺してくれ」などと泣きながら訴えるのだった。
まさに義昭は、自分に力が足りないがために人間関係を整理できず、悩み苦しんでいた。その迷いゆえに駒にも八つ当たりをし、しまいには首を締めてほしいと懇願する始末。駒の前で甘えや弱さを出す義昭の姿からは、いかに駒を心の拠りどころとしているかが見て取れる。さらに、その関係は、2人を演じる門脇と滝藤の芝居の力でより臨場感を増す。義昭がどれほど思い詰めていたのかは、急に激情した際の口元がヒクヒクと痙攣しているところや、大きな瞳に溢れんばかりの涙を貯め込んだまま、さらにこれでもかと目を見開く滝藤の繊細な芝居によって引き出される。さらにそれを受け、義昭の気持ちを汲んで涙を流す門脇の芝居もまた光るものがあった。