『MIU404』は従来の刑事ドラマとどう違う? マチズモとの断絶と根源的な悪への視点

『MIU404』と従来の刑事ドラマの違い

 最終コーナーを曲がり、物語が加速する『MIU404』(TBS系)。星野源演じる志摩一未と綾野剛扮する伊吹藍のバディを中心に、第4機動捜査隊の隊員たちが事件に挑む「機捜エンターテインメント」には、これまでの刑事ドラマとは一線を画する「新しさ」がある。

 エンタメの世界で不動の地位にある刑事ドラマ。ここでその詳細に立ち入ることはしないが、50年以上の歴史の中で、数々の名作と人気キャラクターが世に送り出されてきた。『西部警察』(テレビ朝日系)の大門圭介(渡哲也)や『あぶない刑事』(日本テレビ系)のタカ(舘ひろし)とユージ(柴田恭兵)、『踊る大捜査線』(フジテレビ系)の青島俊作(織田裕二)、『相棒』(テレビ朝日系)の杉下右京(水谷豊)など、それぞれの時代を象徴するキャラクターが多くの視聴者に愛されてきた。

 いわゆる刑事ドラマを特徴づけているのは、独特の男くささだ。無造作に巻かれたネクタイにトレンチコート、くわえタバコをふかし、鋭い眼光で事件を追う。事件が解決すると、行きつけのバーでグラスを傾ける。血なまぐさい事件が生活の一部になっている刑事ドラマの主人公にとって、こうした“ハードボイルド”な世界観は日常の延長だった。『太陽にほえろ!』(日本テレビ系ほか)で有名になった殉職シーンをはじめ、ともに捜査にあたる同僚との絆も頻繁に描かれた。仲間の思いを背負って犯人逮捕に執念を燃やすというモチーフは、様々な作品で繰り返されてきた。

 刑事ドラマは「男の世界」と言っても過言ではない。その理由は、警察が典型的な男性社会であるところに求めることができる。危険な仕事を男の領域とする考え方もあるが、法律によって捜査権限が与えられ、犯罪者を罰するために強制力を行使する警察は、暴力を別の暴力でストップする、国家権力の中でも特に父権的な組織である。実際、刑事ドラマで描かれる警察組織は、石原裕次郎や中条静夫演じる現場の長を中心とした男系家族とみることができる。そのことは警察と対置されるヤクザが同じく男系家族であることからもわかる。刑事ドラマが男くさい世界になるのは必然性があった。

 もちろん、女性を主人公とした刑事ドラマもある。篠原涼子主演の『アンフェア』(関西テレビ・フジテレビ系)や二度にわたって連続ドラマ化された『ストロベリー・ナイト』シリーズ(フジテレビ系)は女性刑事が主人公だが、「男社会の中で抗う男勝りな女性」という設定であり、前提としてのスキームは踏襲されていた。

 『MIU404』では、こういった刑事ドラマ特有の男くささ、あるいはマチズモが見事なまでに捨象されている。志摩と伊吹の上司である桔梗ゆづる(麻生久美子)は女性初の1機捜の隊長であり、根性論とは無縁の合理的思考の持ち主。実績を重ねて異例の昇進を果たしたノンキャリアの桔梗は、男社会の論理をしなやかに拒絶する。麻生は、出世作となった『時効警察』シリーズ(テレビ朝日系)で三日月しずかを演じており、コメディテイストの強い同作は、警察のマッチョなイメージを反転する作品でもあった。

 また、第7話で、家庭を顧みずに指名手配犯を追う4機捜の陣馬耕平(橋本じゅん)は、息子・鉄(伊島空)の婚約相手との顔合わせに遅れたことを詫びた後、息子の優しさは「こいつが自分の頭で考えて勝ち取った特性」とたたえる。家父長的ではない父親像に理解を示した。

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