『アンナチュラル』ミコトの言葉を思い出さずにいられない 『MIU404』重苦しさが詰まった終盤戦

『MIU404』重苦しさが詰まった終盤戦へ

「見たくないんです。不条理な事件に巻き込まれた人間が、自分の人生を手放して同じように不条理なことをしてしまったら負けなんじゃないんですか。(中略)私を絶望させないでください」(TBS系『アンナチュラル』第10話)

 『アンナチュラル』最終話で、石原さとみ演じる三澄ミコトが、井浦新演じる中堂系に投げかけた言葉である。その言葉はそのまま、『MIU404』(TBS系)で愛する妻を不条理に殺されて、自身も犯人を殺してしまった元刑事・蒲郡(小日向文世)に対して投げかけたくなる言葉だった。恩人であり憧れの存在だった彼が犯してしまった罪を知って、自分の無力さに子供のように泣きじゃくる伊吹(綾野剛)の姿は、まさに「絶望」そのものだった。

 「誰かが最悪の事態になる前に止められるんだろ。超いい仕事じゃん」と初回で言っていた彼だからこそ、同時期に妻が殺されたことで始まっていた恩人の不幸は、皮肉にも第1話のエピソードにもあった「廃車」というフレーズでリンクして、余計に哀しい。

 第8話の彼はほとんど素顔のままだった。「気づいてしまった世界のズレを、伊達メガネで誤魔化して」いたのかもしれない彼は、誤魔化しきれなくなってしまった事実を前に、素顔で恩人と向き合った。

 第7話が描いたのは、「現在地」。第6話と第8話がリフレインする志摩と伊吹2人の過去にまつわる事件を描いたものだったのなら、間に挟まれた「現在」の第7話は、なぜか本名を言わない人々が、無意味で不要な「宝物」が集められた場所・トランクルームに集い、思い思いに歌い踊る、つかの間の休息回だった。

 りょう演じるコスプレイヤーのジュリは艶やかな姿を見せたと思いきや、次の瞬間には男装し、「清瀬十三」と名乗る弁護士に姿を変えている。「悪い大人もいるけどちゃんとした大人もいる」と家出少女たちを正しい道に導く彼女は、ちゃんとしているのか、へんてこなのかわからない存在。特に解説されることのないその奇妙さをそのまま受け入れることを、多様性の一つと形容すべきなのかはわからない。ただ、そこにその日限りで集う、名もなき幻のような彼らの姿は、奇妙だからこそ、愛おしく、何より『MIU404』らしさを象徴している回だった。

 「私たちはいつも間に合わない」とは第4話で桔梗(麻生久美子)が言った言葉だが、その言葉を反芻せずにはいられない第8話は本当に過酷な回だった。罪を犯してしまった人に対して、共感に近い感情で寄り添い、捕まえることで正しい道に導く、蒲郡が言うところの「彼らを止め、許す」仕事をやってきたはずの彼らの物語は、第8話において初めて「許さないこと」に直面する。元刑事・蒲郡が、妻を殺した犯人を「獣」として処刑した。風呂場で手を固定され、怯え、何度も許しを請う男の姿も、蒲郡が逮捕される時の「早いとこ死刑にしてくれ、税金の無駄だ」という台詞も、この、登場人物たちが一様に優しすぎるドラマの中では一際異質だ。

 そんな中で登場した、ドラマ『アンナチュラル』の舞台・UDIラボ、そして飯尾和樹演じる坂本と、松重豊演じる所長の神倉。彼らはこのエピソードに漂う重苦しさを和らげる緩衝材として存在していた。だが、それだけではない。彼らの物語の中で執拗に登場したのは、井浦新が演じた中堂系だった。

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