『MIU404』伊吹と志摩が絶望を乗り越え踏み出した第一歩 ラスト5分、全てが一変する

『MIU404』伊吹と志摩が踏み出す第一歩

 「機捜っていいな。誰かが最悪の事態になる前に、止められるんだよ。超いい仕事じゃん」。第1話で、そう無邪気に話していた伊吹(綾野剛)の姿が懐かしい。あのとき、伊吹も私たちもまだ知らなかった。人生のすべての瞬間が分岐点になっていることを。悲しみの上に成り立っている豊かさがあることを。そして、人はそう簡単には救えないということを。

 多くの事件に触れ、志摩(星野源)の元相棒・香坂(村上虹郎)の死に向き合い、伊吹の恩人・ガマさん(小日向文世)の悲しい現実を受け入れてきた伊吹と志摩。ふと、この先定年まで刑事を続けて、どれだけの人を救えるのかと2人で考える。

 「できなかったことを数えるんじゃない。できた数を数えるんだ」とは、ベテラン・陣馬(橋本じゅん)がこの仕事を続けてきて得た教訓だ。もしかしたら、この先誰かの助けに応えられた数よりも、救えない数のほうが多いかもしれない。それでも、伊吹と志摩は「間に合う」「間に合う」と何度もつぶやき、自分たちに言い聞かせて再び歩み進めようとしていた。1人だったら間に合わなかった過去を乗り越え、きっと2人なら……と。

 金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)第9話。副題は「或る一人の死」。その予告の文字に、多くの視聴者が震え上がった。今夜、誰かが死を迎える。そんな漠然とした情報だけが予言された世界を、じっと見つめるしかできない。4機捜の誰かか? 裏社会のボス・エトリに狙われるハムちゃん(黒川智花)か? 道を外れたまま帰れずにいる成川(鈴鹿央士)か? 事件を嗅ぎ回るナウチューバーの特派員REC(渡邊圭祐)か? それとも、謎の男・久住(菅田将暉)か?

 第8話でガマさんから受けた衝撃。信じたい結末しか受け付けなかったことで判断を見誤ったトラウマが、伊吹だけでなく私たち視聴者にも残っている。だが、そんな私たちの気持ちを見透かすように、ピタゴラ装置のごとくハムちゃんと成川の運命が転がっていく。懸賞金がかかったハムちゃんを見つけるために、成川は特派員RECに接触。すると、RECは「人の善意」を利用して目的を果たそうと企む。

 SNSで身内の「人探し」を語り、情報収集を開始するのだ。これは現実社会でも注意喚起されていることで、実際にDVやストーカーなど事件の加害者による書き込みだったという事例もある。「困っている人を助けたい」という純粋な思いが、フタを開けてみたら事件の片棒を担ぐ可能性になっているという危うさ。外国人労働問題と同じく、私たちの平和な風景を少し注意深く見つめると、こんな矛盾した構造が出来上がっているのだと突きつける。

 そして、いつも顔を隠すように生活してきたハムちゃんも、困っている成川の力になりたいという気持ちから、その警戒心が緩んでしまうのも辛い。自分が桔梗(麻生久美子)にしてもらったように「いっしょに戦おう」と言ってあげたい、まだまだこれからの成川をよりよい未来へのスイッチになりたいと願うあまりに、簡単にエトリに操られた成川の罠にかかってしまう。

 行方不明となったハムちゃん。その事件に成川が関わっている可能性。そして、裏にはエトリが必ずいる。「今度こそ、間に合わせる」とお互いに誓った伊吹と志摩。「今度こそ、正しい道へと導く」と、心に決めた九重と陣馬。そして「今度こそ、捕まえる」とハムちゃんに約束した桔梗。この事件を巡るそれぞれの執念が、すさまじいエネルギーとなって画面越しに伝わってくる。

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