『私の家政夫ナギサさん』を通して見える、“家族にしかできない仕事” 次週は恋の予感も?
「なんかもう人間てしんどい」と、もらしたくなる夜がある。仕事をして、帰ってきて、洗濯物を取り込んで、畳んで、アイロンをかけて、定位置にしまって、ご飯を作って、食べて、食器を洗って、お風呂を洗って、歯を磨いて、体を洗って、髪を乾かして……ちゃんとするって本当に大変だ。この「しんどい」は、どんなに「やればできる」という気合を入れても乗り越えられないものがある。時間は有限だからだ。何かに比重を置けば、完璧にとはいかない。
『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)第3話。メイ(多部未華子)は家事が苦手なのに加えて仕事が忙しく、部屋がすぐに散らかってしまう。「仕事も家事も両立できる子になって」と育てられた手前、こんな汚れた部屋を母・美登里(草刈民代)に見せられないと、家政夫のナギサさん(大森南朋)に片付けてもらうことに。スマートな作戦に思われたが、思わぬタイミングで美登里とナギサさんが遭遇してしまうのだった。
案の定、メイが家事のできない子だと知って落胆する美登里。美登里がメイにかける期待の大きさは、彼女自身が持つコンプレックスからきているようだった。結婚を機に、家庭に入った美登里。だが、美登里もまた家事が大の苦手だったのだ。専業主婦という仕事の面白さを見い出せず、お母さんらしいことができない自分を受け入れられずにいた美登里。
実はコンプレックスを抱くことは、ネガティブなことばかりではない。自分のできないことと向き合うことで、別の得意を見つけられたり、他者を尊敬できるキッカケにもなる。だが、コンプレックスをこじらせてしまうと、自分を正当化しようと認識が歪んでいく。専業主婦なんて、家事なんて……つまらない仕事だ。自分ができないことを棚に上げて、そんなふうに思い込もうとしてしまうのだ。
美登里の抱える自己矛盾。自分にもできないことを、メイや妹・唯(趣里)に「やればできる子」と追い込んでいく。もちろん相手に期待をして、その可能性を信じてあげることはいいことだ。だが、美登里の場合は娘たちの選択と自分の人生をつい重ねて見てしまう、つまり課題の分離をできていないことが、母と娘の双方にとって息苦しい日々を生んでいる。
メイには「一片の悔い無し」と胸を張っていえる人生を送ってほしい。仕事も家事も“できる女”になってほしい。そう願う気持ちは決してウソではない。でも、美登里が本当に満たされるのは、娘たちが期待に応えることではなく、そうなれなかった自分自身を受け容れること。