橋本環奈、『午前0時、キスしに来てよ』は大きな転換点に 新ヒロイン像の確立までを振り返る
“奇跡の一枚”で大きな注目を集めてから早6年。キャリア初期には『暗殺教室』での自立思考固定砲台役や、往年の角川映画のスピリットを引き継いだ『セーラー服と機関銃』など、いわゆる“アイドル女優”としての位置付けにあった橋本環奈だが、2017年春に所属していたアイドルグループRev. from DVLが解散した後は本格的に女優業へと転身。しかしどういうわけか『銀魂』や『斉木楠雄のΨ難』と、やたらとはっちゃけたコメディ演技ばかりが続くこととなった。たしかに、飾らないキャラクター性で好感度を高める良い機会になったことは言うまでもないのだが、そうした作品ばかりでは彼女の秘めたるポテンシャルを存分に引き出せないのではないだろうかと危惧してしまったほどだ。
ところが2019年に入り、女優・橋本環奈のフィルモグラフィに一筋の光が射し込む。年明けすぐに公開された『十二人の死にたい子どもたち』で彼女が演じたのは、長年“商品”として大人たちに利用されてきたことに嫌気がさし、集団安楽死に参加を決める人気女優という役どころ。物語の中盤まで顔をマスクで覆い隠していた彼女が、その正体を明らかにしてすぐに自身の想いを語り出すシーンでの、極限まで抑制された感情の表出は恐ろしいほど惹き付けられるものがあり、すでにそこには“アイドル女優”と揶揄された一時期の面影は無かった。ましてや共演している俳優陣は揃いも揃って同世代屈指の演技派ばかりで、その中に置かれても一切見劣りしない存在感を放ったとなれば、やはり彼女は只者ではないと証明されたことになる。
それでも、原作漫画の世界観を忠実に再現した『キングダム』では河了貂を演じ、時折コミカルな雰囲気も漂わせるながらしっかりと役柄に染まっていたり、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』でも恋に悩むヒロインと財閥令嬢のプライドの高さの二面的なキャラクターをコミカルな毒の強さとともに見事に体現。もっぱら昨年の『今日から俺は!!』(日本テレビ系)も含め(もちろん福田雄一作品との相性の良さもあると見えるが)、愛らしさとコミカルさを兼ね備えた少年漫画的なヒロイン像こそが橋本環奈の良さを引き出す最良の方法なのかもしれないと、一度は考え直したぐらいだ。
ところが最新作『午前0時、キスしに来てよ』を観てみると、その考えは一瞬で打ち消される。橋本演じるヒロインの花澤日奈々の登場シーンからラストシーンに至るまで、すべてにおいて橋本環奈たる魅力が余すところなく発揮された作品となっていたのである。ここまで本稿の中で並べてきた主要な出演作品名からも分かる通り、本作で橋本は少女漫画のヒロインを初めて演じることとなった。前述の『かぐや様〜』も10年代の日本映画のトレンドたる“キラキラ映画”の形式を少なからず踏襲した作品ではあったが、やはり立て続けに観るとまるで性質が違うことがわかる。初の少女漫画ヒロイン役で、こんなにも理想的に、気を衒わない愛すべきヒロインを演じてくれる女優が他にいただろうか。