橋本環奈、『午前0時、キスしに来てよ』は大きな転換点に 新ヒロイン像の確立までを振り返る
日奈々というキャラクターは、片寄涼太演じる国民的スーパースターの綾瀬楓と恋に落ちるという点を除けば、真面目な性格だけどもロマンティックな恋に憧れ、家族想いで友人想いで、寝相が悪かったり(ヒロインが少し抜けたキャラクターであることを示した原作の冒頭のコマがしっかりと再現されているのには驚かされた)、体型も気にしていたりと、いかにも少女漫画のヒロインの鉄板である、どこにでもいる普通の女子高生だ。もちろん橋本が“普通の女子高生”に見えないという意見もあるだろうが、これが映画である以上、それはあまりにも無粋な発想だ。
劇中の設定でこそ綾瀬楓と正反対の立場にある日奈々ではあるが、その役柄を橋本が演じることで映画に2つの化学反応が起きる。まずは橋本が繰り広げるポップでコミカルな“少女漫画的”なコメディ演技。これは間違いなく対象に位置する“少年漫画的”なコメディ作品を経験したからに他ならないだろう。そこで培ってきた“飾らないキャラクター”が、少女漫画映画に欠かせない“完璧ではないヒロイン像”に結びつき、観客に親近感をもたらすきっかけとなる。そしてそれと同時に、それとは正反対の共感性も作品に与える。片寄と橋本が並んだことで、とにかくスクリーン映えするカップルが恋模様を繰り広げてくれる。これは劇中でこっそりと映画館に通い、古い恋愛映画を観てときめく日奈々と同様の感覚を現実の観客にも味わわせることができるのである。
いずれにしても橋本は、“少年漫画”と“少女漫画”双方におけるロマンティックコメディを演じる圧倒的な適性を持った稀有な女優であることは間違いない。今後もこの種の作品が作られ続けていく可能性が高いだけに、否が応でも橋本のヒロイン再登板を期待せずにはいられないところだ。それでも、8月に放送された『アナザースカイ』(日本テレビ系)で見せた酒豪ぶりといい、20歳を迎えてとにかくその引き出しの多さと魅力を倍増させているだけに、キラキラした青春映画は他の同世代俳優たちに任せて、どんどん先へと進んで行ってしまうような予感もする。
年明けすぐに公開される主演作『シグナル100』は、漫画原作で高校生役でありながらもキラキラとはかけ離れたスリラー作品だ。中村獅童演じる担任教師に催眠暗示をかけられた生徒たちが、次々と自殺を図るなかで、生き残ろうとするというなかなかトリッキーな物語である。注目すべき若手俳優が顔をそろえているが、実績面や『十二人の〜』で見せたシリアスな演技への素養から考えても、橋本の独壇場となる可能性は極めて高いだろう。『0キス』で学園青春ものの頂点に上りつめ、さらにその次のステップに進むための転換点としては実にふさわしい作品となるのではないだろうか。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『午前0時、キスしに来てよ』
全国公開中
原作:みきもと凜『午前0時、キスしに来てよ』(講談社「別冊フレンド」連載)
※原作者・みきもと凛の「凛」は旧字体が正式表記
出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、 橋本環奈、眞栄田郷敦、八木アリサ、岡崎紗絵、鈴木勝大、酒井若菜、遠藤憲一
監督:新城毅彦
脚本:大北はるか
音楽:林イグネル小百合
配給:松竹
(c)2019映画『午前0時、キスしに来てよ』製作委員会