『けいおん!』『バンドリ!』『うた☆プリ』……アニメーションにおける演奏表現の進化を辿る
実演シーンだけで構成された2本のアニメ映画
ライブアクションにせよ、モーションキャプチャにせよ、演奏シーンをアニメで作り上げるのは、通常の作画以上の工程を必要とする分、手間暇のかかる作業だ。音楽を題材にしたアニメでも、多くはストレートプレイを基本にしたドラマであり、ここぞという盛り上がり部分にライブのシーンを用意するという構成の作品がほとんどだが、そこに一石を投じるかのように、全編実演シーンで作られたアニメ映画が今年だけで2本も登場した。『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジ LOVE キングダム』と前述の『バンドリ!』シリーズの劇場版『BanG Dream! FILM LIVE』だ。
2作品とも、フィクションの映画というより、音楽コンサートを映画館で見る「ライブビューイング」に近い鑑賞体験を目指した作品だ。ミュージシャンにとってのゴールは様々だが、大勢の観客の前でパフォーマンスすることは大きな目標の一つだろう。この2作品は、ある意味でアニメキャラたちがその大きな目標を叶えた姿を描いたものだと言える。どちらもゲームを起点としたメディアミックス作品だが、そのメディアミックスの中で描かれてきた、大きな物語の集大成としてライブがあり、それを映画館で擬似的なライブビューイングとして楽しむことで、実在のミュージシャンを応援するのと同じような体験をファンに与えようとしているのだろう。この2本は、メディアミックスによる物語の語り方と、その中における映画の位置づけを考える上でも非常に興味深い。
筆者も『BanG Dream! FILM LIVE』を観た時、アニメキャラのミュージシャンは、もはや現実のミュージシャンと変わらないのではないかという感慨を覚えた。この作品に関しては、手持ちカメラの長回しを利用した楽屋裏映像も挿入されるが、演奏シーンの作り込みとともにそのシーンの精巧さも深い次元の実在感を生み出すことに貢献している(映画予告編の最後の数秒にその映像が使用されている)。
アニメで音楽演奏に実在感を与える試みはこれからも様々な形で続き、さらに洗練されていくに違いない。その先には、リアルと虚構の垣根という概念を超えた、コンテンツ消費の新しい感覚が生まれるかもしれない。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■作品情報
『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』
全国公開中
原作:上松範康/ブロッコリー
総監督:古田丈司
監督: 永岡智佳
CGティレクター:中島宏
キャラクターデザイン原案:倉花千夏
キャラクターデザイン・総作画監督:藤岡真紀
キャラクターモデリングスーパーバイザー:宮嶋克佳
音楽:Elements Garden
制作:A-1 Pictures
配給:松竹
製作:うた☆プリ劇場版製作委員会
(c)UTA☆PRI-MOVIE PROJECT