坂元裕二、ドラマで開花した作家性は映画にどう引き継がれる? 『花束みたいな恋をした』への期待

現代の空気を背負う、有村架純の逸材性

 有村架純と菅田将暉がW主演を務める映画『花束みたいな恋をした』の制作が決定した。監督は土井裕泰、脚本は坂元裕二。2017年に話題となった連続ドラマ『カルテット』(TBS系)のコンビが、今度は映画を手掛ける。

 物語は明大前駅で終電を逃したことで知り合った22歳の男女の5年間を描くものになるという。坂元裕二は現在、もっとも新作が待ち望まれている脚本家だ。

 19歳の時に第1回フジテレビヤングシナリオ大賞(1987年)を受賞して脚本家デビューした坂元は、1991年に大ヒットした恋愛ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)を手掛けるヒットメーカーとなる。

 1996年の『翼をください!』(フジテレビ系)以降は、テレビドラマから離れ、飯野賢治が手掛けたゲーム『エネミー・ゼロ』や『リアルサウンド 風のリグレット』のシナリオを担当した。他にも映画『ユーリ』の監督を務めたり、漫画原作や作詞を多数手掛けている。つまり、当時の坂元は、ドラマ脚本だけでなく、様々な分野で活躍するクリエイターだった。

 現在、坂元は2018年の『anone』(日本テレビ系)以降、テレビドラマの執筆を休んでいる。しかし、他ジャンルの創作は手掛けており、俳優の豊原功補が演出を手掛けた舞台劇『またここか』の脚本を手掛けている。また、坂元がゼミを持つ東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域の学生たち(坂元裕二ゼミ)による短編会話劇の脚本監修もおこなっており、本人も廣原暁監督の『お願いがございまして』に脚本を提供している。

『お願いがございまして』脚本 : 坂元裕二/ 監督 : 廣原暁

 現在のドラマ脚本休止期間は坂元のキャリアにおいて、96年以降の時期と重なるものがあるのかもしれない。

 話を戻そう。2002年にドラマ脚本家に戻ってきた坂元は、ヒット作を連発し、2007年にいじめを題材にしたドラマ『わたしたちの教科書』(フジテレビ系)で向田邦子賞を受賞する。だが、本当の意味で坂元裕二の作家性が開花するのは2010年の『Mother』(日本テレビ系)以降だろう。大きく変わったのは先が読めない社会派テイストの物語と独自の会話劇だ。

 そして、2011年に発表した『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)で坂元のスタイルは一つの到達点を迎える。

 本作について、坂元は「自分の中で文体みたいなものが見つかったドラマ」だと、『脚本家 坂元裕二』(Gambit)の中で答えている。そして、劇中の会話は、当時、ユーストリームで雑談を配信していた17歳の女の子の敬語とタメ口が入り混じった言葉遣いが面白かったので、全部吸収して、自分の言葉にしていったという。

 確かに『最高の離婚』(フジテレビ系)を筆頭に、坂元裕二作品の会話劇は敬語とタメ口が入り混じった変幻自在のものとなっている。『花束みたいな恋をした』は、坂元のスタイルが確立されて以降、はじめての映画となるため、過去に坂元が脚本を手掛けた映画作品とは、全く違う手触りのものとなるのではないかと期待している。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる