坂元裕二、ドラマで開花した作家性は映画にどう引き継がれる? 『花束みたいな恋をした』への期待

現代の空気を背負う、有村架純の逸材性

 もちろん、主演の二人も注目だ。 

 菅田将暉は『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)以来で主演は初めてだ。20代の俳優の中では圧倒的にうまい菅田が坂元の脚本をがっつり演じた時にどんな化学反応が生まれるのか楽しみである。

 一方、有村架純は2016年『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系、以下『いつ恋』)で主演を務めて以来となる。

 『いつ恋』は現代(2010~16年)の東京を舞台にした恋愛ドラマで、物語の折返し地点で東日本大震災が起こるという構成になっている。本作で有村は、北海道から上京し、介護施設で働く杉原音を演じた。

 音のような地方出身の素朴な女性を演じさせると有村は突出した魅力を見せる。

 今年放送された岡田惠和脚本の『そして、生きる』(WOWOW)は東日本大震災のボランティアで知り合った男女の恋愛を描いたドラマだが、本作で有村は、岩手に住む女優を目指す女性を演じた。

『連続ドラマW そして、生きる』

 震災と恋愛を絡めたことや、恋人役が『いつ恋』に出演した坂口健太郎だったこともあってか、岡田による『いつ恋』への返歌にも見えるドラマだったが、『花束みたいな恋をした』もまた22歳の男女の5年間を描くという。舞台が現代で、20代の若者を描くのならば(直接描かないとしても)二人が震災をどう体験したかは避けては通れないところだろう。

 前述した『脚本家 坂元裕二』に収録された有村との対談の中で、坂元は有村の芝居を見て「ああ、ちゃんと生きてる人たちを見せてもらっている」と感じた、と語っている。『そして、生きる』もそうだったが、今の時代の空気を背負った女性を描きたい作家にとって、有村はこれ以上ない逸材なのだろう。

 坂元は『花束みたいな恋をした』について「憧れでもなく、懐かしむのでもなく、今を生きる人のための、今のラブストーリーを作りたい」とコメントしている。キラキラ映画ブームも一段落し、恋愛ドラマも減りつつある中、80年代から恋愛を描き続けてきた坂元が本作に何を込めるのか。楽しみである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『花束みたいな恋をした』
来冬、全国公開
主演:有村架純、菅田将暉
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
製作幹事:リトルモア、TBSスパークル
配給:東京テアトル、リトルモア
(c)2020『花束みたいな恋をした』製作委員会
(c)ヤン・ブース(whiteSTOUT)
公式サイト:hana-koi.jp

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