坂元裕二、野木亜紀子らに続く脚本家に? ヤングシナリオ大賞『ココア』14歳・鈴木すみれの実力
坂元裕二、野島伸司、そして野木亜紀子など有名脚本家を数多く輩出してきたフジテレビヤングシナリオ大賞。若手脚本家の登竜門といわれる同賞を史上最年少の14歳(執筆時点では13歳)でさらったのが、現在、中学2年生の鈴木すみれだ。受賞作『ココア』が1月4日23時30分より放送された。目の肥えた審査員たちをうならせた若き才能のデビュー作はどのようなものだったのか。
『ココア』は何の接点もない3人の女子高生が主人公。教室にも家庭にも居場所がなく、夜の渋谷を彷徨い歩く黒崎灯(南沙良)。両親が共に不倫をしていることを知りながら、幸せな家族の一員を演じている鈴森香(出口夏希)。クラスメイトと一線を引き、誰にも笑顔を見せない大沢志穂(永瀬莉子)。それぞれ傷を抱える少女たちが、他者との交流を通して少しずつ再生していくさまを同時進行で描き、フィナーレのクリスマスでバラバラだった3人のストーリーがほんの少し交差する。
3人のストーリーはそれぞれ繊細に描かれていたが、最も作品のコンセプトを明確に打ち出せていたという意味では灯の物語が印象に残った。作品タイトルにもなっている「ココア」。だが、灯が冒頭から手にしているのはビターな「コーヒー」だ。生きることに絶望を抱えている灯には、「ココア」の味は甘ったるすぎる。代わりに「ココア」を愛飲しているのが、夜の渋谷で灯が出会う路上ミュージシャンの雄介(渡辺大知)だ。雄介はいい年をしながら親に仕送りをもらいつつ下手くそなギターを続けている。
そんなふたりが出会い、少しずつ心境が変化していく。灯は「コーヒー」を手放し、「ココア」を飲むようになり、雄介は「ココア」を卒業し、リクルートスーツに身を包んで「コーヒー」をあおる。灯にとっての「コーヒー」は孤独と拒絶の象徴。誰かに自分の弱さを見透かされるぐらいなら、大人ぶって「コーヒー」を飲んでいる方がマシ。そう心を閉ざしていた灯が、ぬくもりの象徴である「ココア」を手にしたことで、もう一度他者と共に生きる人生を選んだことを表現した。一方の雄介にとっての「ココア」は甘い夢物語。「コーヒー」は苦い現実だ。「ココア」と「コーヒー」を使ってふたりの変化を表したところに、鈴木すみれのセンスが光る。