『まんぷく』菅田将暉、安藤サクラから“人徳”を学ぶ 人との交流において光る秀逸な演技
第二子の幸が生まれたときのこと。福子(安藤サクラ)たち家族はもちろん、東(菅田将暉)もまた同じくらいに感動していた。「こんな経験初めてです」。そして、すぐさま東京へ戻り、萬平(長谷川博己)に幸の誕生を伝えに行った。思えば、東は『まんぷく』(NHK総合)に登場して以降、福子たちと幾度となく喜怒哀楽を共有してきた。福子たちに幸せな出来事が起これば、東もまた心から喜び、腹立たしいことが起これば、同じように憤ってきたのだ。それは、まるで彼も立花家や幸田家の一員であるかのようだった。
どうして、東はかくも福子たちに寄り添ってきたのだろうか。
ダネイホンのおかげで東の妹は救われたという。この事実も大きな理由の一つであることは間違いない。だからこそ、萬平を自由にしたいという思いは強かった。ただ、その思いをさらに強くしていたのは、彼なりの“不条理なことへの憤り”もあるのかもしれない。萬平たちに次々と降りかかってくる困難も“不条理なこと”の一つである。あるいは、ダネイホンが出てくるまで、妹が栄養失調で苦しむことになったことも、一つの“不条理”なことと言えよう。戦後という激変期の中で、日本人は多かれ少なかれ、様々な“不条理”にさいなまれてきた。それは、東京帝大を出た弁護士であろうと例外ではないのだ。
その点、実は東京財務局の増岡(菅原大吉)たちも同じなのだろう。しばしば萬平たちに多くの難題を突き付けてきたわけであるが、作中では増岡の本音が零れ出るシーンもあった。進駐軍の言いなりになることをぼやく部下に対して、「俺だってこんなクソみたいな仕事はしたくないさ!」と言ったり、進駐軍との電話での会話で「そもそも彼(萬平)を逮捕したのが間違いだったんだ!」と怒鳴ったりしていた。彼らもまた、“不条理”に押しつぶされそうとしていたのかもしれない。