すべての人にそれぞれの“サニー”がある 『SUNNY』が教えてくれる人生の楽しみ方
もちろん、1990年代の女子高生が全員コギャルだったわけではないし、1980年代の韓国の女子高生がチームを組んでケンカに明け暮れていたわけではないと思う。きっと同じ世代を生きた人、それぞれの“女子高生像”があったはず。そういう意味で、この物語はどの国や地域でも、そしてどの時代においてもリメイクが可能なのかもしれない。昭和、大正、明治……を生きた女学生たちにも。他の国の若者たちにも。そして、この作品を観た全ての人にとっても。それぞれの“サニー”があったのではないか。
だが一方で、 今年の夏に公開された本作の舞台が1990年代だったのは、必然だったようにも思う。1990年代の日本は、2018年と共鳴している部分が多い。1995年には阪神淡路大震災があり、地下鉄サリン事件が世間を震撼させた。同じように今年に入って度重なる災害が起き、あの事件に関与していたとみられる死刑囚の刑が立て続けに執行された。1990年代に漂っていた世紀末感は、2018年の“平成最後の夏”と近いものを感じる。
何かが終わって、また新しい何かが始まる、という時代の変わり目。そこに漂う切なさと、不安と、小さな希望。1990年代、女子高生たちが憧れてやまなかった安室奈美恵は、今年引退を表明した。子供でも大人でもない19歳の安室が歌った「SWEET 19 BLUES」が切なく心に響くのも、あのころを懐かしむ気持ちに加えて、何かが変わろうとしている今の時代の匂いとリンクしているからではないだろうか。
環境が大きく動こうとしているとき、大事になるのは“人生の主人公は自分”ということだ。「自分の人生の主役に戻れた」。イム・ナミ(ユ・ホジョン)、奈美(篠原涼子)が言うように、軸となるのは自分の物語を描く大切さ。私たちは大人になると、どこか求められている役割に、自分を当てはめてしまいがちだ。妻であること、嫁であること、母であること、会社員であること、経営者であること……女子高生というみんなが同じ立場だったころとは違い、大人になればそれぞれ担う役割も変わってくる。だからこそ、青春時代のような関係性を維持することは難しい。
気づけば、バラバラの道を歩む仲間を見て、焦ったり、悩んだり。 今歩いている道が自分で選んだものであっても、どこかで“別の道があったのでは?”と迷うこともある。求められる役割を完璧にこなそうとするほど、自分らしさを忘れてしまう瞬間も。そんなとき、本来の自分を呼び戻してくれるのは、青春時代の自分自身だ。「いい未来を生きていますか?」 と問いかけられる劇中のビデオレターのように、この映画を観れば自分の人生の主役が誰なのかを思い出させてくれる。
「1999年に地球は滅亡する」というノストラダムスの大予言は現実にはならなかったが、私たちはいつか必ず死を迎えるというのは逃れられない事実。ならば、それまでにどれだけ生ききるのか。1990年代のコギャルは、女子高生という華の時代を全力で謳歌した。だが、人生の旬は10代だけと誰が決めたのだろうか。大人になっても、友のためにひと肌脱いだり、抱き合って泣いたりしてもいいではないか。青春時代を過ぎても、今日という日が残りの人生でいちばん若い。人生の旬は、いつだって今この瞬間なのだ。主人公が未知の環境におどおどとしていたとき「行くよ」と肩を組んでくれるリーダーのように、この映画からこれからの人生を楽しむ心強さをもらったような気がする。
(文=佐藤結衣)
■公開情報
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』
全国公開中
監督・脚本:大根仁
出演:篠原涼子、広瀬すず、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、池田エライザ、山本舞香、野田美桜、田辺桃子、富田望生、三浦春馬、リリー・フランキー、板谷由夏
原作:『Sunny』CJ E&M CORPORATION
音楽:小室哲哉
配給:東宝
(c)2018「SUNNY」製作委員会
公式サイト:http://sunny-movie.jp/