前田敦子は“純朴な魔性”をどう発揮するか? ドロドロの不倫劇『毒島ゆり子のせきらら日記』への期待

 前田敦子が、2016年4月スタートのTBSドラマ「テッペン!水ドラ!!『毒島ゆり子のせきらら日記』」でドロドロの不倫劇を演じることが話題だ。このドラマが目指すのは、“深夜の昼ドラ”で、前田演じる超恋愛体質の政治記者役は、がむしゃらに働き、プライベートでは二股恋愛や不倫といった奔放な恋愛を満喫しながらも、本当の愛を探していく女性を演じる。映画監督からは高い評価を受けている前田だが、テレビドラマでもいよいよ本領を発揮となるだろうか。女優・前田敦子の魅力を改めて検証してみたい。

 前田敦子と言えば、ご存知AKB48オープニングメンバーの1人で、不動のセンターを務めたAKBのアイコン的存在だ。AKBの歴史を築き、現代のアイドルブームの頂点を極めた大スターと言って間違いないだろう。ただ、社会現象を巻き起し国民的アイドルとなった前田だが、なぜ“絶対的センター”であり続けたのか、不思議に思う向きもあるだろう。秋元プロデューサーがその理由を「センターにいちばん向いてないな、と思ったからです。ファンはアイドルにシンデレラ・ストーリーを求めているんです」「しゃべりは全然ダメです。ただ、それでも彼女をセンターにしたのは、前田敦子っていう子には、やっぱり天才的なオーラがあるんです」(引用:『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』 アスコム刊より)と語るように、完璧ではない普通の14歳の子が、アイドルの成長過程をリアルタイムで実現していく「シンデレラストーリー」と、未知数な力を秘める「天才的オーラ」という2つの魅力が人気の理由だったと推測される。

 第3回の総選挙では1位になったにも関わらず、泣き叫ぶように「私のことは嫌いでも、AKBは嫌いにならないでください!」というインパクトのある言葉を放った。人気があるが故の重圧と多くの誹謗がのしかかる、当時19歳の女の子の苦しみが痛いほど伝わるシーンは、「シンデレラストーリー」と「天才的オーラ」がピークに達した瞬間であり、やはりただ者ではない存在だと実感させた。

 そんな前田は2012年の8月にAKBを卒業し、女優への道を進むことになる。

 AKB時代から、ヤンキー女子高生たちの青春を描いたドラマ『マジすか学園』(テレビ東京)や、ロボット役を演じた学園ドラマ『Q10』(日本テレビ)、映画初主演作『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』などに出演しているが、なかでも卒業前に作られた山下敦弘監督の映画『苦役列車』での、主人公が恋する古本屋のアルバイト・桜井康子役がとても良かった。“こんな子いるよな”と思わせる素朴な雰囲気で、彼女が自分に心を開いてくれたと思った主人公は愛の告白をするのだが、それを頭突きで拒絶し姿を見せなくなる。心の中では何を考えているのか分からない”純朴な魔性”っぷりが、彼女にはバッチリはまっていた。

  その後、黒沢清監督作『Seventh Code』では一般人を装いターゲットを殺害する腕利きエージェント役、廣木隆一監督作『さよなら歌舞伎町』では音楽プロデューサーに枕営業を仕掛けるミュージシャンの卵役、堤幸彦監督作『イニシエーション・ラブ』では巧妙な手口で二股をかける歯科助手役など、最後まで見届けないと本性が分からない”純朴な魔性”っぷりを遺憾なく発揮し、こうした作品で演じたキャラクターが女優・前田敦子のベースとなっていった。

 もう一点特筆すべき作品が、卒業後に山下敦弘監督と再びタッグを組んで製作された『モラトリアムタマ子』だ。本作では、まるで現実の前田敦子が卒業を期に、実家に引きこもったかのような無気力感溢れるダメ女を演じている。一日中ジャージ姿でニュースを見ては「日本はダメだ」とつぶやき、父親に「ダメなのは日本じゃなくてお前だ!」と言われ、「その時が来たら動くわよ私だって。少なくとも今ではない!」と啖呵を切るその姿。今まで前田を起用してきた映画監督たちが言うように「そこに居るだけでいい」という存在感は、アイドルの大スターだった過去と、不思議なオーラを持つ前田にしかできない“演技を越えたもの”である。それが秋元康が言う「天才的オーラ」なのかもしれない。

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