イーユン・リー『自然のものはただ育つ』がピューリッツァー賞受賞 二人の息子を自死で失った作家のノンフィクション

イーユン・リー『自然のものはただ育つ』

 イーユン・リーによるノンフィクション『Things in Nature Merely Grow』(邦題『自然のものはただ育つ』)が、2026年ピューリッツァー賞〈回想録・自伝部門〉を受賞した。同賞は5月4日にニューヨークで発表された。

 日本語版は篠森ゆりこ訳『自然のものはただ育つ』として、河出書房新社より2025年11月18日に刊行されている。

 ピューリッツァー賞は1917年、アメリカのジャーナリストであるジョセフ・ピューリッツァーの遺志に基づいて創設された賞で、ジャーナリズム、文学戯曲、音楽の各部門ごとに応募作品をピューリッツァー賞委員会が選考し、受賞者・受賞作を決定する。

 著者のイーユン・リーは、20年に及ぶ作家生活で『千年の祈り』『理由のない場所』『ガチョウの本』『水曜生まれの子』など数々の作品を発表し、評価を受けてきた。本作は10代の息子二人を自死で失ったあとに記したノンフィクションであり、初のノンフィクション邦訳作品となる。

 著者は本書のなかで「夫と私は二人の子どもをもうけ、二人とも亡くした。2017年に16歳のヴィンセント、そして2024年に19歳のジェームズ。どちらも自死を選び、どちらも自宅からそう遠くない場所で亡くなった」と記している。

 長男ジェームズの死の直後には小説『理由のない場所』を発表したが、次男ヴィンセントの死に際しては、事実と考えを記すノンフィクションという形を選んだ。長男が感覚の人であり、次男が思考の人だったからだという。

 本書で著者は、苦しみや悲しみを乗り越えようとはしていない。むしろ「奈落の底」を住処とし、苦しみとうまく付き合っていこうとする姿勢を示している。自分が書いたもので慰めを見出してもらえるならありがたく思うけれども、同じ体験をした人々や悲しみにくれる人々を励ます内容ではないとも述べている。苦しみや悲しみはひとそれぞれであり、どの人の「奈落の底」も違っているものだからだ。

 本作は全米各紙で取り上げられ、全米図書賞ノンフィクション部門をはじめ、複数の文学賞の最終候補にも選出されていた。

 著者のイーユン・リーは1972年、北京生まれ。北京大学で生物学を専攻し、卒業後の1996年にアメリカに留学。アイオワ大学大学院で免疫学を研究していたが、進路を変更し同大学院の創作科に編入、英語で執筆するようになった。2005年の短編集『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞、PEN/ヘミングウェイ賞、ガーディアン新人賞などを受賞。2009年に初の長編『さすらう者たち』を発表した。これまでにPEN/マラマッド賞を受賞、PEN/フォークナー賞、PEN/シーン・スタイン賞など数々の賞を受賞している。現在はプリンストン大学で創作を教えながら執筆を続けている。

 訳者の篠森ゆりこは翻訳家。イーユン・リー作品の訳書に『千年の祈り』『さすらう者たち』『黄金の少年、エメラルドの少女』『独りでいるより優しくて』『理由のない場所』『もう行かなくては』『ガチョウの本』があるほか、クリス・アンダーソン『ロングテール』、マリリン・ロビンソン『ハウスキーピング』などを手がけている。

■書誌情報
『自然のものはただ育つ』
著者:イーユン・リー
訳者:篠森ゆりこ
価格:2,640円(税込)
発売日:2025年11月18日
出版社:河出書房新社

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