大人気絵本『ねこいる! いる!』著者・たなかひかるに聞く、“頭がよくならない絵本”に込めた想い

人気絵本『ねこいる! いる!』創作の背景
たなかひかる『ねこいる! いる!』(ポプラ社)

 シリーズ累計20万部を突破したヒット作の第2弾となる『ねこいる! いる!』。「ねこがいるのか、いないのか」。ただそれだけを繰り返すシンプルな構造でありながら、お笑いを下敷きにした発想とインパクト抜群のイラストで、子どもから大人まで惹きつける異色の傑作だ。

 リアルサウンドブックでは、本作を生み出した、お笑い芸人・絵本作家のたなかひかる氏にインタビュー。前作からの進化や制作の裏側、さらに“頭がよくならない絵本”という独自のコンセプトに込めた思いを語ってもらった。

ホラー要素は、多分僕の全ての絵本にある

――『ねこいる! いる!』は、2022年に刊行された『ねこいる!』のシリーズ第2弾となります。まずは2作目を制作することになった経緯から教えてください。

たなかひかる:ずっと前から2作目を作りたい気持ちはあったんですよね。ただ、オチに悩んでいて。1作目のオチは、文字の中に猫がいっぱいいるというものだったんですが、それをもう一度やるわけにはいかないじゃないですか。さらに、2作目だからステップアップしたようなオチが作りたかったんです。それでなかなか着手できず、なんとなく放置していました。

――着手するきっかけは何だったんでしょうか。

たなかひかる:『ねこいる! いる!』の一つ前に出したのが、『ももたろう』という絵本なんですけど、まぁ簡単に言うと、ぶっ飛んだ感じの作品なんですね。“ももたろう”という立体文字をどう使うかだけのシュールさを極めた話で、どんぶらことか一切出てこないんですよ。この“偽桃太郎”を絵本売り場にどうしても置いてみたくて、「やらせてください!」って頼んで実現しました。すごくおしゃれに言うと、梶井基次郎の小説のような感じで、書店にレモンを置いていくようなイメージですね。これはこれで大好きな作品が作れたんですけど、ちょっとバランスを取るために可愛い絵本も作っておかなきゃなと思いまして(笑)。それで、じゃあずっと作りたかった『ねこいる!』の2作目を作ろうという話になりました。

たなかひかる『ねこいる!』(ポプラ社)

――2作目を作りたいと思っていたというのは、たなかさんの中で、「もっとこんなシチュエーションでやれる」という気持ちがあったのでしょうか。

たなかひかる:そうですね。1作目である程度ルール説明は終わっているので、2作目はルール説明を割愛して、いきなりぶっ飛んだ状態からいけるし、どんどん飛ばしていきたいなと思っていました。

――今作にも、いろいろな“ねこいる”のシチュエーションが描かれていますね。

たなかひかる:この作品は、「ここから猫が出たら楽しいだろうな」の大喜利ですからね。バカバカしさは追求してます。まぁ気持ち悪いシチュエーションもあるんですけどね。マカロニに入っているのはシンプルに可愛いと思っているんですが、歯磨き粉のチューブの中からペースト状に固まって出てくる猫は、集合体恐怖症の方々はゾワッとなるみたいですね。

――……個人的には、マカロニが出てきた時点で嫌な予感がしました。

たなかひかる:ははは(笑)。まぁ猫なんで、ギリ可愛くなったなと僕は思っています。でも確かにAmazonレビューに「集合体恐怖症の方は注意してください」って書いてありましたね。僕、ずっとそのラインが気になってはいるんですよ。僕はギャグ漫画とかも描いてますが、割とグロいものや残酷なものも好きなので、つまみを間違えるとグロいものが仕上がってしまうんです。だから、そういう部分は編集さんとかにストップしてもらってるんですね。言ってみれば、今作でも別に猫が人体から出てきたっていいわけです。でも絵本ではちょっとグロテスクすぎるからやらない。一応守らなあかんラインは守りつつ描いてますね。

――たなかさんとしては、本当はもっと攻めたいけど、子ども向けの絵本だからちょっと手加減してる部分があるのでしょうか。

たなかひかる:まぁそれは絵本の他でできるんでね。漫画とかでは酷い下ネタを描いたりしますし。ただ、ちょっとひねくれているのかもしれないですけど、絵本でも、ただ可愛くて、ただ良い話っていうだけのものは描きたくないんですよね。この猫に関しても、可愛くしすぎないことは意識しました。

――確かにデフォルメされた猫ではなく、ちょっと野生味を感じますね。

たなかひかる:僕、猫飼ってるんですけど、あいつら無表情なんですよね。絵本とか漫画ではニコニコしてる猫が出てきたりしますけど、実際は表情筋がないから基本は無です。何か失敗してても無表情やし、甘えてきても無表情。怒ったときだけ、ちょっと顔変わりますね。真面目な顔して、ずっとよくわかんないことしてる。そういうところに可愛さや愛おしさを感じるんです。だから絶対無表情で描くことに決めてますね。あと目も見開いてるし、全部カメラ目線っていう。前作からずっとそうしてますね。それがなんかいいなと思って。

――真顔でこっちを見てる大量の猫からは、若干の恐怖も感じました。

たなかひかる:これだけたくさんの目に見られたら、ちょっとゾワッとするとは思うんですよね。こういったホラー要素は、多分僕の全ての絵本にあるとは思います。

 あとタイトルにある通り、猫ってただそこにいるって感じじゃないですか。犬は人について、猫は家につくって言うくらいですから、猫は空間にぽんといるような。ただただ、存在しているだけっていう感じが、猫のなんか素敵なところだなと思いますね。

描いていて楽しかったのは歯磨き粉のチューブのやつ

――そういった考えから1作目の着想を得た部分もあるのでしょうか。

たなかひかる:まぁそうですね。単に猫を飼っているということもあるし、猫ってキャッチーなものだから、“いないいないばぁ”という一番単純な驚かせ方にして、絵本に取り入れてみた形ですね。あと、「ねこいる」ってめちゃくちゃポジティブな言葉なんですよね。だって猫がいたら、それだけですごい嬉しいですから(笑)。

『ねこいる! いる!』より
『ねこいる! いる!』より

――確かに、猫がいたらめちゃくちゃ嬉しいです(笑)。その猫が、食べ物や楽器など思いがけない場所から次々と出てくるわけですが、このアイデアはどのように考えているのでしょうか。

たなかひかる:とにかく思いついたものをiPhoneのメモ帳にダーっと入れておいて、似ているものがあればより良い方を残していく形ですね。たとえば、ちくわとマカロニだと被るじゃないですか。じゃあどっち残すかって考えたときに、まぁマカロニの方が海外展開したときにわかりやすいかなとか。

――なるほど(笑)。

たなかひかる:ちくわだと説明が必要になってきますからね(笑)。あとは視覚的にインパクトがあるかとか、そういったバランスも見つつ、出す順番を考える感じですかね。逆に言うとそこぐらいしか調整することがないです。ストーリーは基本ないので。

――たなかさんが特にお気に入りの“ねこいる”シーンはどれですか?

たなかひかる:どれも気に入ってますが、描いていて楽しかったのは歯磨き粉のチューブのやつですね。これは一旦チューブから出てくる円柱の線を描いて、その曲線に沿うように猫を配置していったんですが、割と楽しい作業でしたね。あとは腹筋のやつも超馬鹿馬鹿しくて好きです。何がしたいのっていう。

――逆に描くのに苦労したシーンはありますか?

たなかひかる:テニスラケットのシーンは早く描きたかったんですけど、ガットを描いている途中から気が触れそうになりました(笑)。やっぱり猫を描く方が筆がのりますね。早く完成した絵が見たいなと思いながら描けるので。

――オチに悩んでいて着手できなかったというお話も出ましたが、今回のオチは満足いくものになりましたか?

たなかひかる:足し算にはなるので、全く新しいオチが描けたわけではないと思うんですけど、一応グレードアップ感は出たかなと。もし3作目を作ることになったらどうしようかなとは思います。

想像力があれば、自分も他人も救える

――頭がよくならない絵本シリーズは、累計20万部超えのヒット作となりましたが、たなかさん自身、この作品がここまで愛されている理由は何だと思いますか?

たなかひかる:読み聞かせのイベントをたまにやるんですが、この本はただ読むだけじゃなくて子どもたちに「一緒に言ってね」って言って、参加型にすると場が盛り上がるんですよね。だからいつも一発目に読むのは、このねこいるシリーズだったりします。幼稚園や保育園で働いている方からも、「子どもたちと一緒に楽しめる絵本です」って言っていただけることも多いので、そういうところなのかなと思いますね。

――制作時に、読み聞かせを意識した部分もあるのでしょうか。

たなかひかる:1回目に読んだときは気づかなかったけど、2回目に読んだときに、「あ、ここにもいる!」「こんなとこにもいるの?」みたいなコミュニケーションができたらええなって思った部分はありました。

――3月からは『ねこいる!』とかっぱ寿司とのコラボレーションが始まり、グッズも制作され、絵本の外にも猫が広がっていっています。どんな気持ちですか?

たなかひかる:めちゃくちゃ嬉しいですね。ただ、かっぱ寿司さんとのコラボの話をいただいて最初に思ったのが、「あ、『すしん』(寿司を題材にした、たなかひかる作の絵本/2023年刊行)じゃないんや」っていうことでした(笑)。もちろん猫も嬉しいんですけどね。この間、実際店舗に行って見てきたんですけど、店内のいろいろなところにシールが貼ってあったり、注文パネルのスクリーンセーバーにアニメーションが流れていたりして、ありがたかったですね。

――ここから絵本の存在を知る方もいるでしょうね。

たなかひかる:知っていただけると嬉しいですね。本当にいろいろな人の目に触れてくれたらいいなとは思っています。そのとき何なのか認識してもらえなくても、次に絵本コーナーに行ったとき、「あれ? これなんか既視感あるな」くらい思ってくれるだけでも全然ありがたいです。

たなかひかる『ぱんつさん』(ポプラ社)

――ところで、たなかさんは2019年刊行の『ぱんつさん』でデビューされ、今年で7年目になります。絵本作家になったからこそ経験できたことは何でしょうか?

たなかひかる:物を作るっていうことに関していうと、今のところ一番自由度が高くてちゃんと生活費を稼げているものが絵本ですね。僕の中では、ギャグ漫画よりも漫才よりもコントよりも、絵本の方が自由度が高いです。より抽象的な表現ができる分、かなり心が自由というか、穏やかに生きられている感覚がありますね。より抽象的な作品作りと考えると、立体造形や焼き物なんかもやっているんですが、それで生活費は作れないので、あくまで趣味としてやっている程度のものなんですよね。だから、きちんとお金を稼げるもので、ここまで自由にやっていいものがあるという安心感は得られましたね。

――絵本作家という職業が自分にフィットしている感覚もありますか?

たなかひかる:やりたいことのちょうどいいところにある気がします。僕の絵本って、基本はギャグなんですけど、入れ物としてはギャグじゃなくて絵本なんですよね。この発想を漫才にしちゃうとお笑いになっちゃうし、漫画にするとギャグ漫画になっちゃうじゃないですか。まぁギャグ絵本っていうジャンルができちゃうと話は別ですが、今はないと思うので、ギャグの発想をギャグじゃない状態で出せるところがいいなと思っています。

――“頭がよくならない絵本”というコンセプトは印象的ですが、その考え方自体はこれからも軸として据えていくものですか?

たなかひかる:Xの固定の投稿にも「『頭がよくならない絵本』と謳っていますが、幼少期の脳に良い刺激を与えることを期待して作っています。つまり頭がよくなってしまう可能性があります。」という文言を入れてるんですけど、僕の絵本って知育絵本ではないけど発想力を伸ばす絵本にはなっていると思うんです。内容は一切ないけど、「こんなに自由に発想していいんや!」って子どもたちが思ってくれたなら、そういう意味では頭がよくなるはずだと思っています。

――即効的に何かできるようになるというよりも、長期的に想像力や発想力が育っていく、という捉え方でしょうか。

たなかひかる:そうです。読んだ子が変なことをたくさん思いついたり、アイデアをたくさん出すようになったら、それってきっと頭がいいってことですよね。昔、編集の方とも話していたんですが、想像力が豊かになることって人を助けるってことでもあると思うんです。たとえば何かに行き詰まって絶望して死のうと思ったとしても、死ぬ以外の方法が思いつけば助かるじゃないですか。「ここをひっくり返したらいいんちゃう?」「こっちの道もあるんや」って物事をいろいろな角度から見られる能力、つまり想像力があれば、自分も他人も救えると思うんです。だから僕の本を読んだ子が変なことをたくさん思いつく子になってほしい。そういう願いを込めています。

■書誌情報
『ねこいる! いる!』
著者:たなかひかる
価格:1,650円
発売日:2026年2月4日
出版社:ポプラ社

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