【考察】「マンガ大賞2026」注目作は? お弁当ファンタジー『邪神の弁当屋さん』が満たすもの

数ある漫画賞の中でも特に注目度の高い賞の1つ、「マンガ大賞2026」の最終ノミネート12作品が先日発表された。
いずれも名作揃いの中で筆者が特に推したい作品が『邪神の弁当屋さん』(イシコ/講談社)だ。前代未聞の「お弁当ファンタジー」として読者に愛され、2026年1月に最終第4巻が発売されたばかりの本作の魅力に触れていきたい。
人の姿で弁当屋を始めた邪神の日常
物語の舞台となる北の国で古くから信仰されている神・ソランジュ。実りと死を司る神として崇拝される一方で他国では邪神として恐れられており、その温度差故かソランジュがきっかけで北の国と隣国の南の国で戦争が起きた程だった。
争いを引き起こした罰として、創造主に無期限の謹慎処分を下されたソランジュ。謹慎期間中をレイニーという一人の人間として弁当屋を営むことにしたのだ。
レイニーが弁当屋を始めた理由は「隙間を埋める為」だそう。神であるレイニーから見れば人間はとにかく単純な生き物で、埋められない隙間を別の何かで埋めようとしている愚かな生き物のように映る。
心の隙間を埋めることはことさら難しいが、空腹だけは弁当で埋められる。だからレイニーは弁当屋を始めたのだ。
本作の魅力は人間にはおよそ理解の及ばない崇拝の対象である神が、人間として、さらには弁当屋として人々と共生しているというそのギャップだろう。
可愛らしい見た目で、ゆるキャラのような雰囲気すら感じさせるが、それでいて時折背筋が凍るような鋭い眼光を見せることもある。壮絶な経験から、人間という生き物をどこか俯瞰的に、まるで研究対象のように観察しているようにも見受けられる。
そんなレイニーが仕事の中で生まれたご近所さんとのゆるい繋がりや、常連さんには好き嫌いを考慮してお弁当にちょっとした配慮を加えてあげたりする様も物語の端々で描かれている。自分が実は神であったことなど知る由もない人間達との他愛もないやりとりこそ、この作品の旨味を感じられる部分だ。
会話の中で感じ取ることのできる、他人へ向けられた優しさ、自分が愛する存在の為に行動する人間達の姿は、神であるレイニーには新鮮に映るのかもしれない。人間と関わる中で少しずつ変化していくレイニーの心の機微を感じ取れることも、本作の愛すべきポイントだ。
死を司る神の、その裏に見える深い愛
ソランジュは大飢饉の際に自らの肉を飢えた民に与えたという逸話から、北の国では崇められているが、その他の国では死を招く忌み嫌われた存在とされていることのやるせなさから、レイニー自身が自分自身へ刃を向けているようにすら感じる。
どこか自分の存在を消しさってしまいたいと願っているような、生きることに対しての後ろ向きな気持ちが、うっすらと寂しさを感じる本作の独特の存在感の源泉になっているように思う。
そんなレイニーが、彼女を慕う人々との触れ合いの中で、人間の愛らしさを実感していく。
『邪神の弁当屋さん』という物語に触れることで、レイニーと心を重ねて人間のどうしょうもない部分と愛すべき部分を受け取って、最後には昨日より少しだけ優しい気持ちになっている自分に気がつくことだろう。
人間として生きるソランジュが、弁当を詰める日々の中で、人の儚さや美しさ、傲慢さや欲深さ、様々な感情とすれ違っていく中で、空腹を満たすことにやりがいを感じている姿がなんだか嬉しくもある。
過去のマンガ大賞で既に完結済みの作品としては、2019年に『彼方のアストラ』が受賞している。もし『邪神の弁当屋さん』が大賞を受賞すれば、完結作品としては7年ぶりの受賞となる。
結果はフタを開けてみるまで判らないが、大賞を受賞して更に多くの人の手に届いて欲しいと切に願っている。手に取る者の心の隙間を埋めてくれる、人肌の温かさを感じられる『邪神の弁当屋さん』。読み終えた後にはほど良い満腹感で心を満たしてくれるだろう。























