全米図書賞候補作家が描く、終わりのない悲しみと向き合う日々 イーユン・リー『自然のものはただ育つ』

イーユン・リー『自然のものはただ育つ』

 イーユン・リー著『自然のものはただ育つ』(篠森ゆりこ訳/河出書房新社)が11月18日に発売された。

 約20年に及ぶ作家生活の中で数々の文学賞を受賞したイーユン・リーによる『自然のものはただ育つ』(原題:Things in Nature Merely Grow)は、ノンフィクションとしては初邦訳となる作品。

 長男のジェームズの死の直後には、小説『理由のない場所』を書いて発表したが、次男ヴィンセントの死に際しては、このノンフィクションを書いて、事実と考えを記した。なぜなら長男が感覚の人であり、次男が思考の人だったからだそう。

「夫と私は二人の子どもをもうけ、二人とも亡くした。2017年に16歳のヴィンセント、そして2024年に19歳のジェームズ。どちらも自死を選び、どちらも自宅からそう遠くない場所で亡くなった」

「私の悲哀に終わりはいらない。……悲しみとは言葉であり省略化であり、その言葉よりはるかに大きなものの単純化にほかならない」

 著者は今、苦しみや悲しみを乗り越えようとはしておらず、むしろ「奈落の底」を住処とし、苦しみとうまく付き合っていこうとしているという。全米図書賞ノンフィクション部門をはじめ、さまざまな文学賞の候補作となっている1冊だ。

■著者紹介
著者:イーユン・リー  Yiyun Li
1972年、北京生まれ。北京大学に入学し、生物学を専攻。卒業後の1996年にアメリカに留学し、アイオワ大学大学院で免疫学を研究していたが、進路を変更し同大学院の創作科に編入、英語で執筆するようになる。2005年に短編集『千年の祈り』を刊行し、フランク・オコナー国際短編賞、PEN/ヘミングウェイ賞、ガーディアン新人賞などを受賞。続いて2009年、初の長編『さすらう者たち』を発表。その他の著書に『独りでいるより優しくて』『理由のない場所』『もう行かなくては』『ガチョウの本』、短編集『黄金の少年、エメラルドの少女』『水曜生まれの子』などがある。これまでにPEN/マラマッド賞を受賞、PEN/フォークナー賞、PEN/シーン・スタイン賞など数々の賞を受賞。現在、プリンストン大学で創作を教えながら、執筆を続けている。

訳者:篠森 ゆりこ Yuriko Shinomori
翻訳家。訳書に、イーユン・リー『千年の祈り』『さすらう者たち』『黄金の少年、エメラルドの少女』『独りでいるより優しくて』『理由のない場所』『もう行かなくては』『ガチョウの本』、クリス・アンダーソン『ロングテール』、マリリン・ロビンソン『ハウスキーピング』など。著書に『ハリエット・タブマン──彼女の言葉でたどる生涯』がある。

■書誌情報
『自然のものはただ育つ』
著者:イーユン・リー
訳:篠森ゆりこ
価格:2,640円(税込)
発売日:2025年11月18日
出版社:河出書房新社

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