鳥嶋和彦が指摘する電子コミックの弱点とは? 「めちゃコン」YouTubeチャンネルで激論交わす

電子コミック配信サービス「めちゃコミック」が開催する漫画オーディション「めちゃコン」の募集が10月14日より開始された。
本コンテストのゲスト審査員を務めるのは3名。元「週刊少年ジャンプ」編集長で『ドラゴンボール』『Dr.スランプ』(ともに集英社)を立ち上げた鳥嶋和彦氏。「裏サンデー」「マンガワン」初代編集長であり、株式会社コミックルーム代表の石橋和章氏。『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』(ともに講談社)などの作品を編集者として立ち上げた株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏だ。
豪華な顔ぶれの審査員に加えて、大賞作品には賞金300万円(ネームの場合は200万円)が贈られる点、選考の様子がYouTubeにて公開される点など、大規模なプロジェクトとして展開される「めちゃコン」。開催に合わせてYouTubeチャンネルも立ち上がり、責任者・豆野文俊氏への密着に始まり次々と動画が公開されている。
元・小学館編集長・豆野氏が49歳で転職を決意した背景とは
日本の漫画業界の市場規模は今や7,000億円。しかし、そのうちの20%は韓国発の縦読み漫画「WEBTOON」が占めている。豆野氏が抱いたのは「(日本の漫画文化を象徴する)版面漫画、危機じゃね?」という思いだった。
2025年10月から「めちゃコミック」はコマごとに切り分けず1ページそのまま掲載する「版面漫画」も本格的に扱い、幅広い読者に向けたプラットフォームへと進化を遂げる。そんななか豆野氏は他の媒体と差別化できる「オリジナル漫画」を制作することをミッションとしている。
「めちゃコミック」としてオリジナルの漫画作品を作るために、漫画家や編集者を探す豆野氏。彼に密着した動画が公開されているなか、10月23日に投稿されたのは「めちゃコン」審査員の一人、鳥嶋和彦氏にスポットライトを当てた動画だ。
電子コミックの「合理性を追求した非合理性」
電子コミックは読者に関するデータが容易に取れる反面、弊害も存在すると話す石橋氏。彼は「『課金に繋がりやすい』とか『継続率が良い』といったデータが出てきて『売れやすい漫画』の傾向が見えてきちゃう」と指摘する。すると結果的に「似通った作品ばっかりになって、逆にそのルール(『売れやすい漫画』の傾向)に乗ってない作品は、プラットフォームによっては推しにくい状況」になると警鐘を鳴らした。
石橋氏の意見につづけて、鳥嶋氏も口を開く。
「電子コミックの最大の弱点は、アルゴリズムがあって類似の漫画しかリコメンド(おすすめ)されないこと。違う漫画に出会えない」
鳥嶋氏は類似の漫画しかおすすめされないプラットフォームを「システム全体の合理性を追求した非合理性」と表現する。新しい作品、すなわち「(電子コミック市場の未来は)異形なものを取り込んでいけるかに懸かっている」と語る。
また鳥嶋氏はデータとの向き合い方についても持論を展開した。
「データは今と過去は映せるけれど、未来は映せない」「読者は(プラットフォームで)提示されていない漫画を選べない」「『半歩』ズラす(≒読者の想定にない漫画を提示する)為にデータは必要だが(過去を)突破するにはデータを捨てなければいけない」
読者に関するデータは過去の分析には役立つが、未来のヒット作を生み出すには、既成のデータの一部を捨てる勇気。そして「データは新しい漫画の仮説にのみ応用する」という考えが必要であると鳥嶋氏は説く。
「独りよがりで描くものは漫画じゃない」
さまざまな議論が交わされた会議後には単独でのインタビューが行われ、インタビュアーは鳥嶋氏の著書『ボツ』(小学館集英社プロダクション)についても聞いた。
鳥嶋氏が本書で伝えたかったこととして「最近の編集者は数字の為に仕事をしていて、才能と人の為に仕事をしていないと思っている。だから出来上がってくる作品が小粒になってしまう」と語り「(編集者は漫画家の)才能を大切に付き合ってほしい」というメッセージを贈った。
そんな鳥嶋氏は漫画家の「才能」をどのように定義しているのか。
鳥嶋氏は「自分が持っている『新しいもの』『自分だけのもの』を表現したいと思う熱量」が本質だとした上で、熱量があるかないかは編集者との打ち合わせで出される「直し」に耐えられるか、という点で差が出ると言う。
「プロの漫画家は読者が払ってくれるお金によって生活していく人達。読者の望むもの・見たいものを、自分の中にあるものとアレンジして、読者に届ける作業がないと成立しない。独りよがりで描くものは漫画じゃない」
「次の10年を引っ張る漫画家は絶対にいる」
漫画家の才能とともに、編集者として大切なことについて尋ねられると「目の前の才能を好きになる努力ができるか? この1点だね」と即答した。「漫画家に『No』と言えない(編集者が多い)。作家性の尊重は編集権の放棄だから。もっと良いものを作ろうとするならちゃんとダメ出ししないと」。
ダメ出しの必要性は実感しつつ、ダメ出しの仕方によっては編集者と漫画家の関係が悪いものになってしまうのではないかーー。そんな危惧に対しては「『編集者が自分のことを思ってくれている』ってことを仕事の中でちゃんと伝える。その為には関わっている中で成果を出していく。そうじゃないと信頼されない」と鳥嶋氏は断言。「(成果を出すことは)難しくない、成果が出るまでやれば良い」と言葉をつづけた。
「めちゃコン」に対して「次の10年を引っ張る漫画家は絶対にいる。時代を創る漫画家が(「めちゃコン」で)見つかれば良い」と期待を寄せる豆野氏。鳥嶋氏もまた「僕は自分のやりたい事はない。『こういう事をやりたい』っていう人、才能が目の前に現れた時に初めて頭が回る。才能、待ってます」と、未来の才能との出会いに向けた思いも笑顔で語った。
鳥嶋氏、豆野氏はじめ、それぞれに思いを抱く「めちゃコン」の関係者たち。豆野氏のもとにどんな編集者・漫画家が集い、どんな新たな漫画が生まれるのか。「めちゃコン」に集う、データだけでは予測できない「異形」な才能によって、次の漫画文化が創造されていくはずだ。
























