『ディグイット』が覆したスポーツ漫画の定石とは? 新時代を切り開くバレーボール漫画がすごい

2025年、日本のスポーツ漫画界に楽しみな逸材が新たに誕生した。元日本代表エースアタッカーの獅子谷慧(ししやけい)を父に持つ息子、獅子谷岳(ししや がく)がアタッカーの道を捨てリベロとして生きる決意をすることから始まる、バレーボールを題材にした作品『ディグイット』(ヨシダ。/講談社)だ。
元日本代表エースの呪いからの開放
日本のエースアタッカーとして活躍していた父親同様、岳自身もバレーボール選手になることを夢見て、中学時代はアタッカーとしてプレーをしていた。しかし父親とは似ても似つかずスパイクの威力は軽く、相手チームに簡単にブロックされる有様。お世辞にもエースと呼べるような活躍はできなかった。息子の練習風景を見に訪れた父親には、岳よりもスパイクの才能のあるチームメイトに対して心踊る表情を浮かべられ、複雑な思いに駆られる。
それでも岳は自身を冷静に分析し、アタッカーとしての自分の限界値を自身で証明する。
幼い頃の岳に向かって放たれた「父さんみたいな日本一のアタッカーになるんだ」という父からの言葉の呪いを振り切ることに成功した。アタッカーではない自分の可能性を掘り起こし、見出した自分の生きる道が「リベロ」というポジションだったのだ。
リベロとはイタリア語で「自由」を意味する言葉。バレーボールでは守備専門のポジションであり、試合中に何回でも自由に交代することができる。
岳が自身で選んだポジションは文字通り、岳が真の自由を得る為の選択だったのだろう。
鬱々とした感情が刺さる新時代のバレーボールストーリー
本作の特徴は、よくあるスポーツ漫画で見られるような底抜けに明るい主人公然としたキャラクターがほぼ登場しない点だろう。
主人公の岳は父親への対抗心という鬱々とした感情をエネルギーにすることで、自身の奥底に眠る才能を見出そうとする。高校からは母親と共に静岡に引っ越し、昨年県大会ベスト4の県立校、羽海野高校に進学する。そこでも世界一のリベロになることを公言し、不遜な態度でチームメイトにも遠慮なくぶつかっていく姿がなんとも印象的だ。
羽海野高校バレー部のチームメイトも言うなればイマドキの高校生の雰囲気が色濃い。
ナチュラルに岳を煽ってくるチャラさが魅力の1年生、鼓遥仁(つづみはると)にどこか重たい雰囲気を漂わせる、左右どちらの腕でも打てる両利きの万能アタッカー百田葵(ももたあおい)、新メンバーへの挨拶よりも雑誌の袋綴じを開けることを優先しようとするマイペース主将の長尾乙輝(ながおいつき)など、初登場からして濃いキャラクターの面々ばかりだ。
誰もが一癖も二癖もあるバラエティ豊かな陣容で、今後どのような人間模様が繰り広げられていくのかが楽しみで仕方がない。
本作のタイトルにもある「ディグ」とは、サーブ以外のボールを受けるレシーブを意味する言葉だ。例えばスパイクは高校生でも全国レベルでは100kmに迫り、プロのトップクラスにもなれば120km前後の速度を誇る、そんな世界だ。
もしラリー中に放たれた相手の渾身のスパイクをレシーブすることが出来れば、試合の流れを一気に引き寄せることができ、会場を味方にすることもできる。それは正にスーパープレーといえるだろう。当然、相手エースの心を折ることも不可能ではない。地上にいながらにして、相手エースと対等に対峙できるポジション、それこそがリベロなのだ。
世界一のリベロを目指す主人公、岳のプレーがこれから読者にどんな驚きと興奮をもたらしてくれるのか。そしてこの物語が今後どのように繋がれていくのか。期待してその進化の過程を見届けていきたい。
























