『あかね噺』『葬送のフリーレン』だけじゃない! 少年漫画誌で輝きを放つ女性主人公といえば?

少年漫画誌で輝きを放つ女性主人公

 週刊少年ジャンプの人気作『あかね噺』(集英社)が連載3年を超え、ついにアニメ化されることが発表された。放送は2026年中、テレビ朝日系列で予定されているとのことだ。(具体的な放送開始日時については現時点でアナウンス無し)

 さて、同作は週刊「少年」ジャンプの連載作だが、一般的なポピュラリティがそれほど高いとは言えない、少なくとも少年漫画メインターゲットの年齢層はあまり馴染がないであろう古典芸能の落語を題材にしている。しかも「少年」誌連載作には珍しい「女性主人公」の人気作である。

 『あかね噺』の主人公、阿良川あかね / 桜咲 朱音は劇中で二つ目に昇進している描写があったが、日本落語協会の公式HPを見たところ、あかねと同じ二つ目の階級にいる落語家は62人確認できた。そのうち女性の二つ目はわずかに8名である。おそらく『あかね噺』は男性が主人公でも努力と才能で成長していく王道の少年漫画パターンは描けただろう。だが、それではここまでの人気を博することは無かったのではないだろうか。現実世界において女性の落語家は圧倒的に少なく、少年漫画の主人公は圧倒的に少年が多い。「女子高生の落語家が主人公の少年漫画」という設定だけでも『あかね噺』は相当に強い印象を残していると思う。週刊少年サンデー連載中の『シテの花』(小学館)も同じく伝統芸能の能楽を題材にしているがこちらは少年漫画らしく主人公は10代の少年である。能楽師も圧倒的に男性が多く、女性の能楽師は全体の1割強に過ぎない。こちらも女性を主人公にしていたらどのような印象になっていたのか気になるところだ。

 『あかね噺』のような女性主人公の少年漫画は珍しい例ではあっても唯一の例ではなく、週刊少年誌のメジャー作品には他にも女性主人公の例が存在する。今回は「少年漫画の女性主人公」の系譜を振り返っていこう。

■フリーレン『葬送のフリーレン』

 こちらは『あかね噺』と同様に大人気連載作品(記事執筆の2025年8月時点)。2026年1月よりアニメの第2期放送がアナウンスされている週刊少年サンデーの看板作品の一つである。主人公のフリーレンは1000年を超える時を生きるエルフ族の魔法使いで、「少年」漫画主人公に珍しい「女性」であるだけではなく、「大人」の主人公でもある。熟練の魔法使いで人格だけでなく能力的にも成熟した存在であり、成長の余地をあまり残していない。主人公の成長が描かれることの多い少年誌の主人公においてかなり異色の存在である。こういった少年漫画の王道から遠く外れた設定から来る独特のドライな情感は少年誌よりも青年誌寄りだが、ドライであっても決して冷血ではなく絶妙な匙加減で描かれている。

■マーニー『名探偵マーニー』

 『フランケン・ふらん』、『ヘレンESP』などトリッキーな作風で知られる木々津克久氏の手掛けたミステリー作品。週刊誌には珍しい1話完結形式で、現役女子高生の探偵マーニーが事件を解決する。主人公が高校生であるため深刻な事件を扱うことは少なく『氷菓』や『小市民』シリーズのような日常の謎である場合が多い。マーニーはボサボサの髪でファッションにも無頓着でフェミニンさとは遠い存在で、少年漫画の王道的なボーイミーツガールの要素はほぼ皆無である。「探偵は傍観者」というミステリー界の格言もあるが、マーニー自身の私生活はあまり描かれず少なくとも重要な作品の要素になっていない。女性主人公であることに加え、本作も週刊少年漫画誌の作品としてはかなり異色の存在と言えるだろう。メディアミックス展開されていない作品だが、メジャー少年誌の週刊少年チャンピオンに連載されていたまぎれもない「少年漫画」である。変わり種として紹介しておこう。チャンピオン連載作品では『侵略!イカ娘』(秋田書店)も女性主人公の作品だが、こちらは少年漫画王道パターンのドタバタギャグ漫画だった。こちらはアニメ化もされたメジャー作品である。併せて名前だけ言及しておこう。

■明石薫『絶対可憐チルドレン』

 念動能力者(サイコキノ)攻撃・防御・高速移動などに能力を発揮する明石薫は中心キャラクターである3人の「チルドレン」中で最もバトル中に派手な活躍をすることが多く、豪快な性格で少女でありながら王道の少年漫画的なキャラクターとして描かれていた。薫はフリーレンのように老成しているわけではなく、小学生から高校生までの多感な成長期が長期にわたって作中で描かれたため少年漫画の王道である「成長」もしっかりと描かれた。しかしそこはやはり女性キャラクターで10歳年上の皆本 光一との恋愛感情を含む関係の変化も作中の重要な要素の一つだった。王道の少年漫画あるあるで本作も主人公は一番人気ではなく、当初は悪役ポジションで登場した兵部 京介が一番人気だった。京介は長い漫画家歴を誇る椎名高志氏の全作品を対象にした「椎名キャラ人気投票」でも1位だった。

■若月ニコ&乙木守仁『ウィッチウォッチ』

 『あかね噺』と同じく週刊少年ジャンプの連載中の作品である。本作は女性キャラクターの若月ニコの単独ではなく乙木守仁(モリヒト)とのダブル主人公になっている。ボーイミーツガールは少年誌の王道だがニコがモリヒトに淡い恋心を抱いているのはいかにも少年漫画的だし、モリヒトがニコの守護者的なポジションにいるのもいかにも少年漫画的である。二人の主人公で少年漫画の王道要素を補完していると言えるだろう。少年ジャンプ+の看板作品『ダンダダン』(集英社)も同様のパターンで、モモ/綾瀬 桃とオカルン/高倉 健も二人の主人公で少年漫画的な要素を補完している印象である。このような男女のダブル主人公パターンは女性の単独主人公と比べるとかなり数が多い印象である。

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