【漫画】『幸福な王子』は本当に幸福だったのか? 児童文学の傑作を現代アレンジ『ツバメの家』

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
ヨコマズウ:『幸福な王子』が好きで、原作の最後に王子とツバメが一緒に天国に行ってしまう結末もすごく好きなんです。でも「どちらかが生き残ってもいいんじゃないか」「健気なツバメが生き残っても良いお話になるのではないか」と思い、本作を描きました。
ただ本作はツバメが藤宮のいない世界に取り残されてしまうという残酷な見方もできると思います。そんなツバメはこれからどう生きていくのか……。その答えを物語終盤の描写やモノローグで表現しました。
ーー印象に残っているシーンを教えてください。
ヨコマズウ:容体が急変した藤宮がツバメの手を取るシーンです。このシーンから緊迫した展開になっていき、作品全体のテンポが大きく変化するため、読んでいる人が違和感なく読み進められるように気をつけて描きました。
もう喋れない状態の藤宮が最後にツバメへなにか残したくて、必死になっている。ツバメにとってはかなりネガティブなシーンですが、藤宮にとっては心が安らいだ瞬間だったと思います。2人が対照的になるシーンとして印象に残っています。
ーー藤宮がツバメに家を託した理由について教えてください。
ヨコマズウ:藤宮としては自分があまり長く生きられないなかで出会ったのがツバメであり「ツバメのおかげで残された時間を楽しく生きることができた」という思いから、ツバメに特別な感情を抱きました。
でもツバメを残して逝くことは分かっていたので、子どもの頃に過ごしていた大切な家を、1番大切な存在に託したいという思いがあったのだと思います。
加えて藤宮はツバメは生きることに対して前向きではないということを感じ取っていたので「自分がいない世界でもなるべく生きてほしい」という思いを込め、帰るところがないツバメに帰る場所をプレゼントしました。
ーー本作の最後には藤宮から託された家で絵を描くツバメの姿が描かれていました。
ヨコマズウ:藤宮の思いとは違って、この世に残されたツバメは、本当は死んでしまいたいと思っていたでしょう。ただ藤宮に「生きてほしい」と願われてしまったので「じゃあ、とりあえず生きるか」という感じで藤宮の家で過ごしていました。
そんななかツバメが絵を描きながら、以前よりもポジティブになった姿として描いたのは、あまり生きる気力がない状態でも時間が経てば人間らしく生きることができるんじゃないかと思ったからです。藤宮から受け継いだものを糧に、ツバメはこれからも生きていくのだろう。ツバメの人生が少しずつ進み始めたことを示す意味で、最後に絵を描くツバメを描きました。
ーーツバメを描くなかで意識したことは?
ヨコマズウ:ツバメは親がいない環境で大勢の子どもたちと育ってきたので、一般的な女子高生よりも精神年齢が高いのかなと思います。
児童養護施設では自分がお姉さんの役割を担っていたり、大人にも気を使ったりしていると思うので考えや行動は大人なのですが、精神年齢はまだまだ幼いーー。その塩梅を意識しながらツバメを描いていました。
ーー今後の活動について教えてください。
ヨコマズウ:まだまだ描きたいお話があるので、SNSなどで作品を発表していきたいと思います。本作のような恋人でもない、家族でもない。でも友達とも少し違うような関係を描いていきたいです。
ーー言葉で一概に表せられない関係を描きたいと思う背景は?
ヨコマズウ:既存の関係では語ることのできない絆を描いた作品が好きだからです。人間関係において、長い時間をともにする大切な人は友達だったり、家族だったり、恋人だったりと、いずれもカテゴライズしやすいでしょう。
ただ交流した時間が少ない、他人のような関係であっても、一瞬でも触れ合ったら、その人は自分にとって大切な人になることもあると思います。そんな感覚や関係を表現していきたいです。






















