"最恐コンビ" 西浦和也×はおまりこ『池袋怪談』イベントレポート 「池袋は異界と繋がっているのかも」

不思議&怪談蒐集家の西浦和也(にしうらわ)と、怪談と妖怪を愛するグラフィックデザイナー・はおまりこが、怪談アンソロジー『池袋怪談』(竹書房怪談文庫)を7月30日に刊行した。
池袋といえば、JR・私鉄・地下鉄が乗り入れ、百貨店や劇場、サブカルの聖地までが混在するにぎやかな街だ。一方で、巣鴨プリズンや地下壕、空襲犠牲者の埋葬地など、戦争の記憶も色濃く残す。
『池袋怪談』は、そんな表と裏の顔を持つ池袋の奥底を、西浦和也とはおの「最恐コンビ」が徹底取材し、劇場に現れる霊やメイド喫茶の怪異、巣鴨プリズンの記憶など、知られざる怪談の数々を丹念に掘り起こした一冊となっている。
刊行を記念して、7月29日にはドトールコーヒーが運営する「本と珈琲 梟書茶房(フクロウ ショサボウ)」にてトークイベントが開催され、満員御礼の会場で著者二人が制作秘話や未収録エピソードを語った。
鳴り続ける内線電話、生首の女──収録できなかった怪異たち
はおまりこ(以下、はお):ついに『池袋怪談』が刊行されました! 実はこの本の企画は、私が参加する前から進行していて、途中からご一緒させていただく形でした。この本を作るそもそものきっかけは何だったのでしょうか?
西浦和也(以下、西浦):わたしが体調を崩していた頃、『「超」怖い話』シリーズの加藤一さんから「西浦さんが元気になったら、池袋の怪談を書きましょう」「池袋といったら西浦さんしかいませんよ」と励まされたのがきっかけなんです。
はお:西浦さんにとって『池袋怪談』は復帰作でもあったんですね。ご一緒できて光栄です。実はわたしは中高と池袋の学校に通っていて、自称“ブクロガール”なんです(笑)。収録したスポットの選定はどのように行われたのですか?
西浦:池袋は、実は心霊スポットを選ぶのが難しい地域なんですよ。ビルや百貨店はあるけれど数が限られているので、特定されないように書き方を工夫する必要がある。そこは大変でしたね。
はお:わたしもなるべくバレないように、「某商業施設」といった書き方にしています。ちなみに、収録できなかった“オフレコ怪談”にはどんなものがあったんでしょう?
西浦:ある施設では、夜中に誰もいないはずのフロアで、奥の部屋から順に内線電話が鳴り始めるという話がありました。シャッターを一つ下ろすと、その次の部屋の電話が鳴る。どんどん“追いかけてくる”ような感じだそうです。
はお:わたしも似たような話を知人から聞きました。その施設で「何かがこちらに漂ってくる」と感じ、よく見るとそれは無表情な顔をした女性の生首で、気づいたときにはすっと消えていたらしいです。
西浦:こういった不思議な話はたくさんあるんですが、施設に迷惑がかかるので収録を断念したものも多いですね。
戦争の記憶が眠る地、巣鴨プリズンの怪談
はお:収録できたお話で印象的なのは、巣鴨プリズンですね。
西浦:私の知人が、実際に巣鴨プリズンで看守をしていた方にインタビューしたことがあって。その方から貴重なお話を聞くことができました。
かつて巣鴨拘置所があったのは今の東池袋。GHQに接収された時代に「巣鴨プリズン」と呼ばれるようになりました。現在、その跡地には「東池袋中央公園」があり、カスケード(人工滝)や広場が整備されていますが、かつてはその一角に絞首台、もう一方に米兵のための劇場があったそうです。
はお:壁一枚を隔てて、死と娯楽が隣り合わせだったんですね。今でもカスケード裏は人通りが少なく、不気味な雰囲気があります。
西浦:戦後80年が経ち、プリズンの記憶も風化しつつある今、こうした証言は貴重です。『池袋怪談』では、私もはおさんも「巣鴨プリズン」について取り上げていますので、ぜひ読んでいただきたいですね。
はお:巣鴨プリズンのような有名な場所だけでなく、かつての歌声喫茶なども収録していますよね。
西浦:池袋は戦後、演劇や美術といった文化が盛んな街でした。西武線沿線には文化人も多く住んでいて、「池袋モンパルナス」と呼ばれ若い芸術家たちが集まっていました。だからこそ、個性ある喫茶店も多かったのでしょうね。
はお:『池袋怪談』では、「四面塔」についても書かれていますね。
西浦:現在はパルコ近くに立っていますが、昔は西武線の改札近くにありました。江戸時代には街道が交差する場所で、方角を示す「標識」の役割を果たしていた供養塔です。
看板には「一晩で17人が斬られた」とありますが、実はそうした記録はどこにも残っていない。不思議な話です。豊島区が公式に掲げているエピソードなのですが、実態は“謎”なんですね。
はお:調べれば調べるほど、池袋から怪談が浮かび上がってきます。もしかしたら、この街は異界に繋がっているのかもしれません。そんな池袋の魅力を、もっと多くの人に知ってもらえたら嬉しいですね。
■書誌情報
『池袋怪談』
著者:西浦和也、はおまりこ
価格:836円
発売日:2025年7月30日
出版社:竹書房


























