丸善ジュンク堂書店・工藤淳也が語る、リアル書店ならではの強み「書店員の存在には、ものすごい価値がある」

しおりに書かれた“問い”の答えを、書棚から探す「問い散歩」という仕掛け。ジャンルや形態ではなく、テーマや文脈に基づいて自由におかれた歪曲した書棚「知の森」。緊張と緩和の両方にひたれる、“読後”を意識した2つのラウンジ――。「未来の書店を」のお題に基づき、虎ノ門ヒルズグラスロックに誕生した、丸善ジュンク堂が運営する書店『magmabooks』だ。
本を通した知との出会い、そのわくわく感を増幅させる同店だが、さらに「本に慣れ親しんでいない人まで呼び込む」ための仕掛けも実装されているという。
「書店の未来をつくるため」に用意したその仕掛けとは? また仕掛け人の丸善ジュンク堂・工藤淳也氏が、書店業界、出版文化にありったけの情熱を捧げる理由は?
【前編】虎ノ門ヒルズに現れた“未来の書店”ーーmagmabooksの新しさとは? 丸善ジュンク堂書店・工藤淳也インタビュー
ロックバンドと書店のコラボレーション

工藤:本の形を拡張するための実験的な「ギャラリースペース」です。ギャラリースペースといっても、単にアート作品を展示・販売するような場ではありません。この場所を使って、新しい本が生まれ出る。また、その本を通して、これまで書店にあまり足を運んでいただいていなかった方に来ていただく。そうした実験的なゾーンになっています。いま開催中なのが、日本を代表するロックバンドのひとつである「SUPER BEAVER」の特別展示なんですよ。
――ロックバンドと書店のコラボレーション、考えてみるとあまり聞いたことがありませんね。
工藤:だからこそ考えたスペースであり、企画でした。縮小傾向が続く書店にいま来ていただく方々はとても大切なお客様で、本当に本を愛してくださっている方が多い。ただ、「書店が本好きのためだけ」にあってはならない思いもありました。もう片方には「本なんてほとんど読まない」「書店にはいかない」という方々が大勢いる。二分している危機感があったからです。「未来の書店づくり」を議論するなかで、本好きではない方、普段は書店にあまり足を運ばない方にも、来ていただき、本を買っていただきたい。そうした努力を怠っては、書店の未来はしぼむばかりで、なくなるのではないかと。
――そこで、一見、本とは遠い場所にあるロックバンドと共創しようと考えた?
工藤:はい。ただ、本とは遠いようですが、SUPER BEAVERにはすばらしい歌詞があります。「ことば」の力に触れ、知をふくらませるという意味では、書店や本ととても近しい存在だといえます。そこで、SUPER BEAVERの歌詞をビジュアライズした展示をギャラリースペースで開催しました。リアルなギャラリースペースそのものを、本を拡張させたものととらえて提案したのです。加えて、印象的なフレーズをブックエンドやキーホルダーなどのオリジナルグッズの企画販売はもちろん、丸善ジュンク堂限定の記念書籍も出版し、販売しました。
――企画展にあわせてオリジナルの本をつくったんですか?
工藤:そうなんです。もしかするとSUPER BEAVERのファンの方々は若い方も多いので、丸善ジュンク堂はもちろん、書店などにはそれほど来ていただけてないかもしれません。しかし、コラボをきっかけに足をはこんでいただけ、ことばの力を再確認してもらえる。さらにここでしか買えない本をきっかけに、本や書店を前より身近に感じてもらえるのではないかと考えました。フタをあければ、連日多くのファンの方にご来場いただき、本は予約段階で初期に製造した書籍の大半が売り切ってしまうくらいの売上をあげました。ただ、一番うれしかったことは別のところにありました。
――別、というと?
工藤:ご来場いただいたSUPER BEAVERのファンの方々の多くが、企画本以外の他の書籍も購入してくだったことです。企画展きっかけで来店いただいた方が、目的とは違う本との出会いから、新しい知の探求に踏み込んでいただけた。まだまだ私たち書店がやれること、出版業界に貢献できることがあると実感しました。
――なるほど。それにしても『magmabooks』について伺えば伺うほど、単なる一店舗のビジネスというより、書店や出版業界全体の未来を意識した施策や仕掛けの実証実験をされているように見えてきます。
工藤:そうですね。たんに丸善ジュンク堂だけがよくなれば、という意識はありません。出版業界に対する危機感は確かにある。そもそも私自身の出自や立ち位置から自然とそうなってきたところもあるんです。