『キングダム』信『ONE PIECE』ルフィ、強い信念を持つ二人の共通点と違いとは? 3つの軍規違反から考察

中華春秋戦国時代を舞台に、下僕から天下の大将軍へ成り上がる主人公の李信(以下、信)を描いた漫画『キングダム』。強い信念を持つ信は、困っている人を見過ごせず度々軍記違反を犯し、時に蛮行とも言える行動に出る。その様を『ONE PIECE』ルフィに重ねる人も多いだろう。
そこで本稿では、信が犯した軍記違反のシーンとリンクする『ONE PIECE』のシーンを元に、信とルフィが似ているのか検証していきたい。
秦軍千人将・乱銅(らんどう)を斬る(18巻)
飛信隊を率い魏国に侵攻した信が、攻め落とした高浪城で目撃したのは、魏人を陵辱し家財を強奪する自国秦の将、乱銅とその部隊の姿だった。飛信隊副官の渕らに止められるも信の怒りは収まらず、上官である乱銅を一刀。
当時信は三百人将、対する乱銅は千人将。味方、しかも上官に刃を向けることは重罪で、信への打首や飛信隊にもなんらかの処分が下った可能性は十分にあったが、総大将を務める大将軍・蒙驁の孫である蒙恬の計らいにより一夜投獄という軽微な罰で済んでいる。
覚悟の上で乱銅を斬った信は、「味方であろうと外道は許さない。処罰が怖くて何が天下の大将軍だ」と、自らの天下の大将軍像を語っている。これは『ONE PIECE』でもよく見る光景ではないだろうか。
エニエスロビーで世界政府の旗を打ち抜いたり、シャボンディ諸島で天竜人を殴ったりと、間違いなく不利になるだろうという状況でも信念を押し通そうとするルフィの姿勢は、信と被って見える。また、その行動の本質は「誰かのため」であることも二人が似ているという理由の一つだ。
韓に攻められる徐国を救いにいく(24巻)
楚との睨み合いが明け、信たちが次の戦地へと赴くさなか傷だらけの少年が林から現れた。聞けば徐という小さな国出身で、韓から侵略を受けているとの事だった。戦争に巻き込まれ傷だらけの少年を見て憤慨した信は、少年を馬に乗せすぐさま飛信隊を率い走り出す。戦闘シーンはあっさりしており、敵大将を討ったことですぐさま事態は収束した。
この話の特筆すべき事柄は、信がいち早く決断したことによって、徐という情報を武器にする小国に恩を売る形となったことだ。70巻あたりから韓非子のストーリーが始まり、秘密裏に国家間で激しい情報戦が行われていると明らかになった。未だ再登場の兆しはないものの、魏・趙・楚の三国の間に位置する徐が今後信のために力を貸してくれることはまず間違いないだろう。
さらに、元々の行軍ルートから逸れたことで、李牧と楚の丞相・春申君(しゅんしんくん)との密会に出くわし、楚趙同盟が結ばれた可能性を持ち帰ることに成功。信の独断専行ではあったものの、手柄を立てたことで大きな懲罰を受けずに済んでいる。
このように信は、後先考えず走り出した結果、今後有利に繋がる縁を作り出すことが少なくない。主人公補正と言ってしまえばそれまでだが、無鉄砲に見えてその実、論理的に考えて行動していることも多く、飛信隊軍師のテンを始め驚いた表情を浮かべることが多々ある。
これは『ONE PIECE』のルフィのように、成し遂げたいことのために動いていたら結果的に仲間が増えていく現象に近いようにも思える。直接的な仲間として「麦わら大船団」が挙げられるが、空島編で登場するクリケット、魚人島編の魚人たちなど、今後ルフィのために動いてくれることがあるだろう。
惹きつけられる人間性と何がなんでも有言実行する行動力は、絶望を感じている者にも勇気を与え奮い立たせてる。立場や目的は違えど、圧倒的なカリスマ性を有しているに違いない。