【漫画】漫画家志望の青年とホラー小説家が怪異を巡る? ネットで読める短編『霊描いてみない?』がヤバい

最初は主人公が違った

――『霊描いてみない?』はホラーとコメディの融合が独特でした。どのような経緯でこの作品が生まれたのでしょうか?

ムラヤヨウ:当時の『マグコミ』の担当編集さんと連載企画の1話目を作りましょうということになり、アイデア出しを始めました。「どんな漫画にしようか?」から始まり、「ホラーが好きだけど、コメディ要素も入れたい」と思い、「それならジャンルはホラーコメディにしよう」「漫才のような会話劇で話を進めたいのでキャラはバディにしたい」と決まっていきました。それまで日常コメディ漫画を描くことが多かったため、ホラー漫画は初めてで新鮮でした。

――普段は小説家の漫画原作者と漫画家のバディものでしたね。

ムラヤヨウ:まず“幽霊に物怖じしないで自ら進んで関わろうとする奇人・三上”というキャラが生まれ、「彼はどう行動するのか?」ということを考えながらストーリーを膨らませていきました。初期段階では三上は小説家ではなく漫画家かつ主人公だったのですが、「読者目線のキャラを主人公に据えた方が良い」と思い直し、主人公を八坂に変更しました。

――主人公の交代劇があったのですね。

ムラヤヨウ:はい。また、八坂は当初“三上の担当編集”という立場だったのですが、「2人共が創作者で同類にしたほうが良い」と思い直し、小説家と漫画家のコンビに落ち着きました。ちなみに、幽霊をメインテーマに決めた時に“行列”の絵面がイメージとして浮かび、その時点で高カロリーな作画に確定しました……。

——編集者からダメ出しされたりなど、八坂が漫画家を目指すうえでの苦労が多く描写されていました。八坂の苦悩はムラヤヨウさんご自身の経験を参考にした部分もありますか?

ムラヤヨウ:一部経験をベースにしています。出版社への原稿持ち込みや、一時期何を描きたいのかがわからず何もしていなかった時がありましたので。持ち込みは貴重な経験で、目の前で原稿を読んでもらっている時のむず痒い居心地と緊張は今でも覚えています。また、作中でも墓地で八坂が三上に直接原稿を見てもらうシーンがありますが、印象深くしたかったので見開きにしました。

——ちなみにコメディ要素とホラー要素のバランスはどのように調整しましたか?

ムラヤヨウ:実は初期段階ではかなりコメディ色が強い内容だったのですが、「ホラーに振り切ったほうが良い」といったアドバイスをもらい、何度かネームを描き直しました。ただ、やはりコメディ要素も入れたかったので、そこかしこに忍ばせました。

お気に入りの表情は?

——八坂が恐怖したり、三上が興奮したりなど、人間のありとあらゆる感情が描かれていましたね。

ムラヤヨウ:ありがとうございます。表情や仕草などでキャラの人間性を出すよう意識しました。また、29ページの三上の表情がお気に入りです。「それまで真人間を装って猫を被っていたのに徐々に本性が現れ始めた」というシーンです。そんな三上と同じ世界に足を踏み入れた瞬間を描いた51ページ目の八坂の表情も気に入っています。

——先ほど“高カロリーな作画”という話もありましたが、大量の幽霊を描くのは大変だったように思います。

ムラヤヨウ:“焼死した幽霊たち”ということに説得力を持たせるためにどうすれば良いのか試行錯誤しました。真っ黒ベタ塗り、トーンベタ塗り、トーンに処理を入れる、鉛筆塗りなど、いろいろ試したのですがどれもしっくりこず。ならば「線一本一本で肌を表現したらどうだろう?」と考え、描いてみたらしっくりきました。作画に時間はかかりましたが満足しています。

——背景もびっしり描かれていたことも印象的でした。

ムラヤヨウ:読んでいる最中に物語に集中できるようにバランスを意識しています。本作は黒、影中心の画面作りを意識して背景を入れました。

――最後に今後の漫画制作の目標などを教えてください。

ムラヤヨウ:読んでもらえる漫画を作りたいです。その上で記憶に残るような。それから初心と誠意を忘れずに作品づくりに取り組んでいきたいです。

『ふわふわセラピスト』(『COMICポルタ』掲載):
https://comic-porta.com/series/800/

『霊描いてみない』(『マグコミ』掲載):
https://magcomi.com/episode/3270375685468310085

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる