なぜ? 30年前放送『機動武闘伝 Gガンダム』に登場したドラゴンガンダムのガンプラが即完 理由は?
今月20日にバンダイから発表され、予約開始となったHG 1/144 ドラゴンガンダム。現在プレミアムバンダイでは売り切れとなっており、ガンプラと『Gガンダム』の人気を窺わせる状況となっている。
ドラゴンガンダムは、1994年に放送された『機動武闘伝 Gガンダム』に登場するモビルファイター。ネオチャイナ代表のサイ・サイシーが搭乗した機体で、名前の通り両腕に龍の頭のような「ドラゴンクロー」が配置された独特のデザインが特徴だ。ほかにも全体的に中国の武術家や甲冑を思わせるディテールが配されており、中国代表という設定にちなんだ見た目となっている。
両腕のドラゴンクローは自由に伸長させることができるという、Gガンらしいギミックも特徴の一つ。ガンダムシリーズは登場メカに関して詳細な設定が存在する作品が多いが、『Gガンダム』の劇中ではドラゴンクローはほぼ理屈無視で自由に伸び縮みしており、この自由さが本作の魅力でもあった。
■なぜ30年前の作品が大人気に?
とはいえ、ちょうど今から30年前の作品である。小学生の頃にリアルタイムで見ていた世代が30代後半に差し掛かっており、HGドラゴンガンダムに対する若いガンプラファンからの食いつきは未知数だろう。ゆえに店頭での通常販売ではなく、直販サイトでの予約制で販売されたのも、わからなくはない。しかし、結果的には20日12時からの予約開始とともに綺麗に売り切れ、現在は予約不可能な状態となっている。
実のところ、『Gガンダム』に登場したシャッフル同盟のモビルファイターが1/144の新作キットとして発売されるのはこれが初めてではなく、昨年発売されたガンダムローズ、ガンダムマックスターとシリーズを重ねてきた。今回のドラゴンガンダムも含め、注目したいのはその商品仕様である。
前述のドラゴンガンダムの腕のように、『Gガンダム』に登場するモビルファイターには、現実離れした演出が施されることが多かった。どうやって伸びているのかよくわからなかったドラゴンガンダムのドラゴンクローの他にも、装甲を取り外して試合中のボクサーのような軽装になるガンダムマックスターや、肩のマントを開いてローゼスビットを発射しつつフェンシングのような動きで戦うガンダムローズなどが、毎週激闘を繰り広げていたのである。
しかし、1994年当時に発売された1/144キットは、当時の技術的限界もあって、アニメでの印象をそのまま立体化したものとは言い難いものだった。決して当時の設計陣が手を抜いていたわけではなく、キット単体で再現の難しいギミックは別売りのグレードアップセットを使って再現できるようになっていた。しかしそれでもフェイロンフラッグはパーツ化されなかったし、ローゼスビットは数が足りなかったし、フライヤーシールドにマックスターを乗せることもできなかった。1994年に1/144サイズのガンプラで再現するには、『Gガンダム』の演出はハードルが高すぎたのである。
ガンダムローズ以降リリースの続くHG版シャッフル同盟のキットは、1994年に成し遂げられなかったことに対するリベンジマッチのような内容である。1994年には不可能だった「『Gガンダム』の過剰演出をプラモデルで再現する」という試みに、現在の技術水準でもって30年越しのリトライを仕掛けているのだ。
各機体のプロポーションは劇中の印象に近くなるよう改良されており、さらにマックスターの外装着脱や胴体を屈曲させるガンダムローズのフェンシングのような戦闘ポーズなど、劇中に出てきた要素はあらかた再現できるようになっている。1994年の1/144キットを知っている立場からすると、隔世の感がある。まさに、リベンジマッチと言いたくなるような内容だ。
■本編を監督したプラモデルの立体化という付加価値
さらにこのシリーズの特徴として、各キットには今川監督によるオリジナルエフェクトも追加。「本編を監督した人物による新規演出が、プラモデルの形で立体化されている」というのは、前代未聞だろう。
近年、バンダイをはじめとする各社から発売されているのが、エフェクトパーツのプラモデルである。爆発やエンジンノズルからの噴射炎、斬撃の軌道といった、本来ならば無形であるはずのものがパーツとして立体化されており、これらをロボットのプラモデルと組み合わせることで、作ったキットに派手な演出を加えることができる。単に組み立てて完成させるだけではなく、カッコよく展示するというところまでメーカーのサポートが行われているのだ。
加えて、バンダイが開催している「GUNPLA BUILDERS WORLD CUP」や各種模型展示会・コンペでも、派手で大仕掛けなディスプレイは広く浸透。展示会に出品されるような作品は、単にモビルスーツを組み立てて塗装しただけではなく、その先の演出にまで凝るのが一般的になっている。
組み立ててスタンドに乗せるだけで、今川監督の濃い演出を立体で楽しめるという『Gガンダム』の新HGキットは、本作ならではの面白さが感じられると同時に、こういった凝ったディスプレイのトレンドに噛み合ったもののように感じられる。1994年には不可能だった表現を盛り込んだプラモデルのありようとして、非常に納得のいくものだ。また、ガンダムというメカニカルな題材のプラモデルでありながら、有機的で不定形なものをそのまま立体化している点に、このシリーズの面白さがある。
というわけで、真・流星胡蝶剣のエフェクトパーツと今川監督プロデュースのパーツが付属した今回のドラゴンガンダムも、30年の間に可能になった表現と現在のガンプラのトレンドを感じさせるものとなっている。自らトレンドを作り出し、さらにそのトレンドに自社の新製品を衒いなく乗せることができる点こそ、バンダイとガンプラのストロングポイントなのかもしれない