40歳からの“まんが道” 芸人・ごめたんに聞く、話題のグルメ漫画『カーシェアグルメドライブ』誕生秘話
コロナ禍で時間に余裕が生まれたことから、通い始めた自動車免許合宿。その2週間の悲喜こもごもの物語をカタチに残したいと、iPadを買いクリップスタジオの使い方を勉強し、ついにはエッセイ漫画を描き始めたごめたん(お笑いトリオ・グランジの五明拓弥)。
このとき40歳。漫画を描くのはまったくの未経験。『39歳の免許合宿~ストーリーは自分で創れ~』を自費出版したところ、ワニブックスから声がかかり、2022年に商業出版からの漫画家デビュー。その後の物語として描いた『カーシェアグルメドライブ』も、これまでになかった新しいグルメ漫画として話題を呼び、今年8月に徳間書店から発売されたばかりだ。
40歳で漫画を描き始めて3年目。「今、一番漫画を描いていて楽しい」というごめたんに、『カーシェアグルメドライブ』に込めた思いと、漫画家としての手ごたえを聞いてみた。(米田圭一郎)
赤ん坊の状態から描き始めているから、成長の伸びがすごい
──絵を描くのは子供の頃から得意でしたか?
ごめたん:いや、人よりは好きという程度で。テスト用紙の脇に落書きしていたような、よくいる子供でした。レベルは美術·図工4くらいの。
──でも漫画となると大変ですよね。いきなり描けるものですか?
ごめたん:子供の頃から描き続けてきた人のような上手さは最初から捨てていますから(笑)。あとは僕が経験したことを、誇張せずにそのまま描いているだけなので。それよりもiPadのクリップスタジオの使い方を覚えるほうが難しかったですね。
──自分の顔を描くことは、難しいことのように感じます。
ごめたん:よく見ると似てないんですけどね。『39歳の免許合宿~』は17話あるのですが、1話目と最終話の顔が全然違うという(笑)。赤ん坊の状態から描き始めているので、成長の伸びがすごくて。さすがに、商業出版になったとき、最初のほうは描き直しました。
──その『39歳の免許合宿~』の続編として始まった『カーシェアグルメドライブ』が今とても話題になっています。マイカーではなく、カーシェアで楽しむグルメツアー。そのアイディアの発端は?
ごめたん:まず、免許を取得してカーシェアを使ってみたら、普通の人よりもドライブが好きだってことに今更ながらに気が付きまして。漫画関係なく、月1~2回の楽しみとしてカーシェアグルメドライブを楽しんでいたんです。免許合宿の漫画はおかげさまで話題になりましたが、もっと多くの人に読んでほしいと思ったとき、免許取得後の物語を描けばエピソード0も読んでくれるかなと。
──ごめたんさんの絵は、とにかくタッチが独特ですね。
ごめたん:独特なのは、少年漫画をあまり通ってこなかったのも影響があるかもしれません。目がデフォルメされた少年漫画は、それが気になって内容が全然頭に入ってこないんです。劇画タッチじゃないと落ち着かなくて。
──漫画で影響を受けた、ルーツになる作品は?
ごめたん:影響を受けているかどうかはわかりませんが、初めて買ったのが『ドラえもん』(藤子・F・不二雄/小学館)24巻。僕は8月24日生まれなので、小1の頃、縁を感じて手に取った思い出があります。野球やっていたので、『ドカベン』や『大甲子園』(水島新司/秋田書店)も愛読していました。今思えば、渋い絵柄の漫画ばかり読んでしたね。『サバイバル』(さいとう・たかを/小学館)や『あずみ』(小山ゆう/小学館)とか。より誌面が黒いほうがいいみたいな(笑)。
──グルメ漫画はどうですか?
ごめたん:まったく読んでないです。将来、漫画を描くなんて思ってもいなかったですし。それもあって、食べ物を描くのがこんな大変なんだって2話目で思い知るんです。1話目の特製樺太丼はドンブリだからまだ描きやすかったのですが、2話目の煮込みが、まあ難しい。刻みネギをどう表現するかとか、照りを出さないと美味しく見えないとか。
──タクワンひとつ描くのも難しそう。
ごめたん:そうなんです。タクワンと人生向き合ったことがなかったので。
──漫画を描くようになると、飲食店に行くときの意識も変わってくるのでは?
ごめたん:そうですね。描きたいと思った食べ物は、そっちに気を取られて、100%味が入ってきていないかもしれません(笑)。
運転中は完全にトム・クルーズ
──一漫画を描くときのこだわりを教えてください。
ごめたん:読者からしたら、どうでもいいことだとは思うのですが、『39歳の免許合宿~』では、クリップスタジオに入っている直線ツールを多用していたんです。でも結果、全部自分で描いている気がしないなと。線も全部自分で描きたいと思って、『カーシェアグルメドライブ』はほとんどツールを使っていません。
──一どんなシーンを描いていているときが楽しいですか?
ごめたん:食べているシーンの良いアングルを見つけたときかな。作業デスクでは、いつも茶わんと箸を動かしながら、360度のアングルを考えてどこが一番良いか試行錯誤しています。これ、漫画を飽きさせないポイントでもあるんです。クルマの運転と食べるシーンはもう決まっているわけですから、どこで自分らしさを見出すのか。
──一エンジンをかけると、急に劇画タッチになるのも面白いところです。
ごめたん:運転中は完全にトム・クルーズ。映画トップガンの『デンジャーゾーン』を意識しながら描きました。クルマに乗るときって、いつもの自分よりもちょっとだけ胸を張るじゃないですか。だから漫画でも自然と彫が深くなる(笑)。
──一漫画は、描けば描くほど上達していくものですか?
ごめたん:だと思います。カタチを覚えるんでしょうね。漫画を描くまで、人の造形や動きをちゃんと注目したことがなかったんです。たとえば、立っているときの手の位置って、自然と親指が内側に入るものなんですけど、それを知らずに絵を描くと手が真横になりがち。そういったことも、たくさん描いていくうちに自然と覚えていくんです。
──一あと、風景を描くのがとても上手いですね。
ごめたん:そうですかね。風景を描くのは好きです。そういえば、ずっと忘れていたんですけど、昔、趣味で水墨画教室に通っていたんです。木の枝の描き方などは反映されているかもしれません。
──一漫画を描く以前のことですか?
ごめたん:はい。芸人で誰もやっていないからと始めたんですけど……誰もやらな過ぎて、全然広まりませんでした(笑)。それでも掛け軸を描けるくらいまでは成長したんです。もうやめてしまって、水墨画のこともすっかり忘れていましたが……。
──一それが、自然と漫画に生かされているんですね。
ごめたん:かもしれません。筆から、アップルペンシルに持ち替えて(笑)。配置のバランス、余白の取り方、構図は三角形に配置するときれいに見えるとか、全部描かずに見る側にゆだねる部分を作るとか。写実的に書いたら水墨画じゃないって、水墨画の先生は言っていましたから。
──一それが心象風景になって、エモさを引き出しているように思います。
ごめたん:意識はしていないんですけどね。そのとき感じた気持ち良さを素直に絵にしているだけなんです。
マイカーを持ちたい夢がある物語だから面白い
──カーシェアグルメの旅に、マイルールはありますか?
ごめたん:何回かやっていくうちに自分のなかで自然とルールはできました。まず、そんなにお金は使いたくないので、カーシェアを安く済ませられる6時間以内が基本。高速代も高いので、基本は下道を使います。
──6時間以内のギリギリを攻めている感じもします。
ごめたん:店舗や道にもよりますが、往復で60キロ以内が限界ですね。運転しているので、急ぎたくないんですよ。危ないので。
──「安全運転でごちそうさまでした。」という決め台詞が印象的です。
ごめたん:その言葉には気恥ずかしさもあるんですけどね。映像化狙っているなという感じが出てしまっていて。
──車中で流れる音楽も良いアクセントになっています。
ごめたん:ありがとうございます。ただ申し訳ないのですが、僕は別に世の中に音楽なくてもいいタイプなんです(笑)。漫画を描くときも音楽をかけるとノイズになっちゃう。でも、ドライブだけは、道中を楽しむのに音楽があったほうがいいじゃないですか。漫画もそんなドライブ中の気持ちよさを出したかったんです。自分的には映像作品の絵コンテを描いている感覚。やっぱり、映像化しやすいように(笑)。
──音楽にのって、目的地に徐々に近づいていくコマ割りは、確かに映像に向いているかもしれません。
ごめたん:これは自己満足なんですけど、通った道路順に描いています。熱狂的な読者がいたら、そのルートで行ってくれないかなって。ヒントが少なすぎますけど(笑)。
──音楽選びの基準は?
ごめたん:基本は運転していて気持ちのよい曲、自分が楽しめる曲。ただ、漫画の季節やその回の雰囲気に合う曲を探すときもあります。あえていえば、自分の感覚ですが、BPMが法定速度内のゆるい曲。あとは、そのときの季節や気分にリンクしている歌詞かな。結局、自分が楽しめる曲が一番ですけどね。Spotifyで「みんなでつくるカーグルプレイリスト」をみんなで募ったのですが、めちゃいいドライブソングが集まっていますよ。
──そうこうしているうちに、クルマ自体も好きになっていますよね。本の最後では古いセドリックを買おうとしています。
ごめたん:昔のカクカクしているクルマが好きで。でも、あのセドリックは本でも書いた通り、大男の自分にとって中が本当に狭い。乗れなくもないけど、腿にハンドル食い込んだまま運転するのはやっぱりきついです(笑)。
──でも、ゆくゆくはマイカーを買いそうですね。
ごめたん:できればカーシェアグルメドライブの印税で(笑)。ずっとシェアカーのままというよりは、マイカーを持ちたい夢がある物語だから面白いんじゃないですか。