【漫画】ヤングケアラーや教育格差……切実な問題を伝える『マンボウよ海にかえれ』がシュールであたたかい
深刻な地方の進学問題
――今回『マンボウよ海にかえれ』を制作した背景を教えてください。
出路かし魚:同人イベントの出張編集部がキッカケで「週刊少年サンデー」(小学館)のご縁をいただき、担当に就いてくれた編集さんから「新人賞に出すためにオリジナル作品を描いてみませんか?」と声をかけてもらったことが最初です。実は本作は初めて作成したオリジナル漫画なんですよね。
――記念すべき1本目のオリジナル漫画ですが、賞の結果はどうだったのですか?
出路かし魚:ありがたいことに「新世代サンデー賞」の努力賞を受賞しました。
――おめでとうございます。そもそも、なぜ女子高生とマンボウを軸にする物語にしたのですか?
出路かし魚:私が地方出身ということもあり、「地元に行きたい分野の大学がない」「自分より頭の良い友人が家の制約で地元を出られない」「都市部への物理的な距離」「教育に対する優先度の低さ」など、地方出身者の進学問題は身近なものでした。
――高いハードルが複数存在するのですね。
出路かし魚:はい。私は運よく地元を出られましたが、「私より勉強をすべき優秀な人たちが自分の意志に関係なく地元に留まざるをえない状況」「地方と都市部で育った人との教育·文化格差を強く感じた実体験」といったことから本作のテーマを決め、身の回りの具体例を思い出してストーリーを膨らませました。
——また、ヤングケアラーとしての笹木の苦悩が丁寧に描かれていました。笹木の苦悩を描くうえで注意したことは?
出路かし魚:現実にある問題ですので、決して茶化したり軽視したりするような描き方にならないように気をつけました。また、ヤングケアラーに関するニュース動画や記事などを参考にしました。
爆笑コメディ作品への憧れ
――笹木元子というキャラを作るうえで実際に参考にした人などいたのですか?
出路かし魚:そうですね。進学したかったのに家庭の事情で進学できなかった友人たちをイメージしながら作り上げました。加えて、元子のバックグラウンドを考えながら、それを足がかりとして性格を決めていきました。
——一方、マンボウのデザインなどはどのように決めましたか?
出路かし魚:私はシリアスな作風が得意なのですが、本当は爆笑コメディ作品を描くことに憧れがあります。しかし、憧れと同時にコメディを描くのは不得手でして……。シリアス一辺倒に終わるのではなく、「読んで笑ってほしい」という気持ちが常にあり、本作でも「不得手なりになんとかシュールな笑いを……」という思いを込めました。
――「読んで笑ってほしい」という思いが、マンボウのキャラデザや言動を決める羅針盤になったと。
出路かし魚:はい。自分のないセンスと知恵をふり絞った結果、“ハードボイルドな喋り方をする謎の憎めないマンボウ”ができあがりました。
——ちなみになぜマンボウを選んだのですか?
出路かし魚:実際に地元の浜に巨大マンボウが打ち上げられたことが、以前ニュースになっていたからです。また、私のSNSのアイコンをマンボウにしているくらい愛着のある生物だったことも影響しています。
——笹木が最後に出した進学希望先が東京、北海道、三重といずれも地域がバラバラで、「勉強したい」という意思が感じられました。細かいところまで配慮された内容でしたが、ストーリー演出で意識したことは?
出路かし魚:読みやすさと読後感を意識しました。「漫画は読みやすさが一番」と思っているので、フキダシの位置や形、リズムなどはこだわっています。また、読んだ後に暗い気持ちになるのではなく、少しでも前を向けるような、スッと胸がすくような作品になるように意識しています。
――最後に今後の目標など教えてください。
出路かし魚:商業連載漫画家を目指していろいろ取り組んでいます。まだまだ漫画を描き始めたばかりの駆け出しの身ですが、目標に向かって日々邁進中です。活動を応援してもらえると嬉しいです。