次の「スポーツ漫画超え」はNBA挑戦中の河村勇輝? 米バスケファンも注目、172cmのスターが見せるロマン

次の「スポーツ漫画超え」は河村勇輝?

 野球界では大谷翔平がMLBのレギュラーシーズンで規格外の結果を残し、ポストシーズンでも脅威の得点圏打率で話題をさらっている。また先のサッカーW杯で、日本代表がドイツ・スペインという優勝経験国を撃破したことも記憶に新しい。このようにスポーツシーンで「漫画を超えた」「創作でも非現実的でボツになる」と言われるようなトピックが続く中で、バスケットボールの世界でも漫画になりそうな活躍を見せている日本人選手がいる。

 世界最高峰のNBAで、メンフィス・グリズリーズと「エグジビット10契約」(※無保証、最低年俸の契約だが、レギュラーシーズン開幕までにNBAと下部組織・Gリーグのチームを行き来することが可能な「ツーウェイ契約」に切り替えることが可能)を結び、現在プレシーズンマッチで脚光を浴びている若きスター、河村勇輝だ。

 名作『SLAM DUNK』の連載当時(1990〜96年)には、日本人がNBAで活躍する姿を明確に想像できた人は少なかっただろう。現在では、名門ロサンゼルス・レイカーズで主力級の活躍を見せる八村塁が日本人NBAプレイヤーの象徴的な存在だが、まだNBAの契約を勝ち取っていないとは言え、河村の方がより漫画的だ。

 河村選手は身長172cmと、バスケットボール選手としては小柄で、高いアジリティとパスセンスで試合を作る、クラシカルなスタイルのポイントガード。現在のNBAでは、チーム戦術や重用されるプレイヤーのタイプが大きく変化しており、90年代以降活躍していたジェイソン・キッドやスティーブ・ナッシュのような、アシストを量産するタイプのポイントガードはあまり見られなくなった。身長224cmと規格外のサイズを持つオールラウンダー、ビクター・ウェンバンヤマや、センターというポジションで好アシスト連発し、外からのシュートも打てるニコラ・ヨキッチなどに象徴されるように、ポジションごとの役割は相対化され、アシスト数が一人の選手に偏ることは少なくなっている。

 そんな中で現れた、体格の不利を感じさせず、敵陣を切り裂き鋭いパスを通すポイントガードの存在に米国ファンも沸いており、河村のダイジェスト動画がSNSでバズを起こしている。華麗なノールックパスは、豪快なダンクやアリウープに負けないファンタジーであり、河村をマジック・ジョンソンやマヌ・ジノビリ、ジェイソン・ウィリアムスのような名手に重ねて、新たな“魔法”の使い手として注目しているファンも多いようだ。このまま契約を勝ち取り、NBAで出場機会が得られれば、一躍世界的なスター選手になる可能性も秘めている。

 もちろん、比較的近いタイプの名選手としてフェニックス・サンズとの契約を勝ち取った田臥勇太や、マーベリックス傘下のテキサス・レジェンズでプレイした富樫勇樹という二人のスターが存在し、彼らほどの選手が大きな成功を収めたとは言い難い歴史もある。「難しい」という言葉に収まらない高い壁だが、パワー全盛時代のMLBに小柄な体格で乗り込み、スピードと技術で衝撃を与えたイチローのような活躍を見せてほしい……と期待してしまうスター性と“主人公感”が、河村にはあるのだ。

 ちなみに河村は、2021年12月の、「Hanako」誌のインタビューで『SLAM DUNK』に触れ、「宮城リョータの存在が自分のモチベーションにもなっていました」と熱く語っている。小柄でスピードを武器にするポイントガード、という共通点はあるが、河村は優秀なスコアラーでもあり、高校時代も、大学時代も、Bリーグ時代ですら他を寄せ付けない輝きを放つスター選手だった。すでに漫画超えの選手と言っていいかもしれないが、「172cmの日本人が、NBAのスターたちを手玉にとってアシスト王になる」という、ぶっとんだシナリオを実現してほしいところだ。

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