長井龍雪の新作映画『ふれる。』小説版が刊行 『あの花』『ここさけ』に続く“コミュニケーション”の物語

『小説 ふれる。』レビュー

 自身のコミュニケーションスキルの足りなさを思い知らされ、モヤモヤとする人もいるだろう。そこで心のより所になるのが、秋というキャラクターのまっすぐさだ。

 言葉を話すことが苦手な秋が、不似合いなバーテンという仕事をしながら頑張って生きていこうとしている様を、美形で長身にデザインされたビジュアルと、永瀬廉による優しい声によって追っていける。絵も音もない小説の場合も描写やセリフを通して近づける。そんな秋に寄り添うようにして展開を追うことで、いろいろと気づきを得られるだろう。

 人によっては島を離れ、不動産業で先輩社員から罵倒されながらそれでも頑張る諒の姿にたくましさを感じるかもしれない。島育ちという都会ではやはりネガティブに見られがちな境遇にありながら、ファッションの世界で身を立てようと必死になっている優太にもやる気を刺激される。それぞれの生き様に自分と重なるところを見つけて、より深く物語に入り込んでいきたい。

 振り返れば長井龍雪監督は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で幼馴染みだった少年少女の心情の変化と、それでも変わらない友情を描き、『心が叫びたがってるんだ。』で言葉に出す勇気の大切さを描いて来た。そうした作品で見せてきたコミュニケーションに対する思いを、SNSのような通信手段が発達して、言葉が飛び交い感情がぶつかりあうようになった今の時代に、『ふれる。』という作品で改めて示そうとしたのかもしれない。

 その『ふれる。』に触れた人は、きっと誰もがコミュニケーションについて考え、想像したり慮ったりする大切さを感じながら、明日からのコミュニケーションを頑張っていくことだろう。

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