Netflixドラマ『極悪女王』とあわせて読みたい! 傑作ノンフィクション『1985年のクラッシュ・ギャルズ』

『極悪女王』に連なるノンフィクション

 もうひとつ、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』の面白いところが、「クラッシュに夢中になっていた当時のファン」の目線が本の中に入れ込まれている点である。本書は柳澤の手による三人称視点の文章が章立てされて進むのだが、その章と章の合間に入る形で、熱烈にクラッシュを追いかけていた当時の少女の述懐が挟まれているのである。

 家庭に居場所がなく不良少女になった彼女は、深夜のテレビでクラッシュに出会う。ライオネス飛鳥のファンとなった彼女は一念発起してお嬢様高校への受験を決意、合格後は飛鳥の親衛隊に所属してクラッシュを追いかけ続け、ついにプロレス専門誌の編集者という立場にたどり着く。本書におけるこの「3人目の主人公」が誰なのかは、巻末のあとがきで明かされる仕組みだ。

 当時熱狂的にクラッシュを追っていた人物の視点が入ることで、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』は単なるプロレス本の域から頭ひとつ抜けることになったと思う。全力で戦い、血だるまになって凶器攻撃を受けるクラッシュを、当時の少女たちはなぜ自らの感情全てをぶつけて愛したのか。そこにあった切実な思いが当事者の立場から語られることで、レスラーや関係者の視点からの物語だけではなく「女性とプロレス」という観点からの物語が立ち上がってくる。熱烈なファンの立場から「あの頃」のクラッシュが語られることによって、社会現象としてのクラッシュ・ギャルズの本質が理解できるのだ。

 『極悪女王』はクラッシュと抗争を繰り広げたダンプ松本を主役とするドラマだが、抗争相手であるクラッシュの20年にわたる戦いの物語を知っておくことは、ドラマの鑑賞により深みを与えることだろう。なにより『1985年のクラッシュ・ギャルズ』は、単なるプロレス本の枠を超えたノンフィクションの名著である。未読の方は、この機会にぜひ読んでみてほしい。苛烈で激しい80年代の女子プロレスの世界に驚愕し、タフで熱いプロレスラーたちの生き様に胸が熱くなるはずだ。

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